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その女が注射器を捨てるまで 第101話

元シャブ中の私が信頼を得るためには、まずはまじめに働いている証拠を見せること

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章1 生まれ変わる証明>

再び誘惑だらけの東京へ

 東京で職を得たあたしは、がむしゃらに働いた。朝から晩まで、大型トラックを運転して、荷物を運んだ。荷物の上げ降ろしや搬入搬出の時間調整は、決して楽ではなかったけれど、スッパリと足を洗った今、振り返ってみると、覚醒剤に頼らなくてはならないほどの苦しみではなかった。

 仕事の辛さなんて、結局、シャブを使うための口実だったんだ。覚醒剤に溺れていた頃の自分を、冷静に見られるようになっていた。


 落ち着くとすぐ、あたしは実家に電話をかけた。

 短い呼び出し音のあとに、「もしもし」と電話に出たのは子供だった。電話をしたのがあたしとわかると、子供はしばらく、最近の学校生活や友達との出来事を早口で話し続けた。

 子供が満足するまで話し、あたしがいくつか補足の質問をして、子供がそれに答える。そうして二、三十分も話してから、「おばあちゃんに替わって」と子供に言ってみた。
 子供の口振りでは、電話でのやり取りを、あたしの母がそばで聞いているようだったから。

「ちょっと待ってね」という言葉に続いて、遠くで子供の話し声。

 ドキドキしながら、待った。

 しかし、母は電話に出なかった。


「話すことはないって」

 戸惑う子供に、こちらの連絡先を告げてから、「また電話するね」と受話器を置いた。

 ──やっぱり......。

 予想はしていた。
 母が電話に出てくれない可能性を。

 書き置きだけで家を出てしまったのだから、怒って当然。

 いえ、それだけじゃない。

 子供を置いていったことや、東京に来たことで、前回の上京──一連の忌まわしい出来事のきっかけになったミツオとの上京と、今回のを重ね合わせて見ているのだろう。
 無理もない。

 今度は純粋な出稼ぎだとか、子供の同意を得ているとか、もう二度と覚醒剤に手を出すつもりはないとか......、前のときとは大きな違いがいくつもあるけれど、母の目には入らないのだろう。
 あたしが、覚醒剤を常習していた東京に、再び行った。それだけで、もう充分に一大事なのだろう。

 ──心配かけてごめんね、お母さん。

 でも、実家に戻るわけにはいかない。母にはとにかく、書き置きを読んでもらい、あたしの言うことを信じてもらうしかない。

 母に信じてもらうために、あたしにもできることはある。

 それは、あたしが東京でまじめに働くこと。

 そして、まじめに働いている証拠を見せること。

 あたしは実家に仕送りをした。
 子供の養育費とお小遣いとして、毎月二十五日のお給料日に、決まった額を実家に送金した。

 トラック運転手の仕事は歩合制なので、毎月のように決まった額を送金するのは、正直辛い月もあった。
 けれど、その分は翌月に仕事を余計に入れてもらって、収入を増やすことでカバーした。

 少しずつではあるけれど、着実に貯金も増やしていった。
 収入が多かったわけではないけれど、貯金はそれほど困難でもなかった。ほかにお金を使うことがなかったから。
 働きづめに働いていたから無駄遣いをする暇もなかった。

 自活して子供のために送金することそのものが、あたしの一番の楽しみになっていた。


(つづく)



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子どもの声を聞くことが唯一の支えになった



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/