〜第四章まで〜
シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。
<第五章13 未来>
「あたしはもう本当に大丈夫」それを証明するには......
出会いに恵まれて、あたしはどんどん生きることの楽しさを再確認していった。
信頼できる友達に囲まれ、その友達から信頼されて、自信のようなものも取り戻していった。
一旦、自信を取り戻してみると、これまで抱いてきた劣等感のほとんどが、たいして根拠のないものだったとも思えるようになり、そういった根拠の薄い劣等感が覚醒剤に逃げる原因のひとつになっていたことも、少しずつ見えるようになっていった。
そうなれたのは、子供たちやママ友達に加えて、地元の旧い友達のおかげでもある。
ショッピングセンターで会った友達が、気を利かせて方々に連絡をしてくれて、それであたしが戻ったのを知った友達が数人、うちに電話をくれた。
何人もの懐かしい友達と再会し、話をした。
たいていは東京の話とか、興味本位で聞かれる覚醒剤の話とか、流行りのドラマの話とか、内容よりも話すこと自体に意義のあるものばかりだったけれど、そんな中でときどき、なんの気なしに友達の口にする言葉が、あたしの胸に突き刺さったりもした。
「誰だっていいところもあれば、悪いところもある」
「母親と言っても人間だから、やっぱり間違いはある」
「レイ子のお母さんは厳しい人だけど、レイ子自身もお母さんに厳しいんじゃない?」
「お母さんに厳しくて、完璧を求めすぎてるんじゃない?」
ハッと目が覚めた。
そのとおりだった。
「お母さんだって人間だから、完璧っていうのは無理なんじゃない?」
「だからレイ子だって、完璧な娘にならなくてもいいんじゃない?」
子供の頃から心の中で、ピンと張りつめていたなにかが、バチンと大きな音を立てて、弾けた。
「で、レイ子はこれからどうしたいの?」
訊ねられて、考えた。おぼろげに思っていることがあった。
「ちゃんと独り立ちしたい」
本当の意味での、親離れ。
でも、そうは言っても......。
求める世界と現実との間で揺れるあたしに、友達の一人がさらりと言った。
「だったら、また家を出ればいいじゃん!?」
子供もいるし、親だって許すわけがないから無理だ。
そう答えると、
「大丈夫だよ。前に東京行ってたときなんか無茶苦茶してたんでしょ? それでも大丈夫だったじゃん、子供はいい子に育ってるんでしょ?」
そう言うと友達は、「子供はあんたより出来がいいんでしょ?」と余計なひと言をつけ足して高笑いをした。
失礼なやつだ。どうせ他人事だと思って......。
でも、これを境に、真剣に考えるようになった。
ひとまず家を出ることを。
(つづく)

遅い巣立ちの時が近づいていた...
(取材/文=石原行雄)
石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/