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その女が注射器を捨てるまで 第97話

目の前の私を受け入れてくれた。暖かかった。

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〜第四章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。


<第五章12 友達>

偏見の目に晒されて

 ママ友の一人が、意外な言葉を口にした。

「知ってたよ」

 その言葉に合わせて、ほかのママ友も小さくうなずく。

 どうして?

 驚き。

 乾いたノドが張りついて、その問いを発することができずにいると、別のママ友が言った。

「レイ子さんがこっちに戻ってから、ちょっとして、電話が回ってきたんだよ」

 続けて、クラスのあるお母さんの名前を口にした。そのお母さんが、どこで聞いてきたのか、あたしが刑務所帰りの元シャブ中ということを、学級連絡網で回そうとしたという。

「PTAなんかで『イジメのない健やかなクラス作りを』なんて言ってるくせに、自分がやってりゃ世話ないよねー」

 隣に座るママ友が言うと、別のママが、

「『お付き合いは考えてからのほうが』とかって、おせっかいだっつうの」

 ママ友三人が同時に笑い声を上げた。つられてあたしも笑った。

「今はもう、やってないんでしょ?」

 向かいのママ友が、穏やかな口調で訊ねてきたので、とっくにやめたし、本当に懲りたのでもう二度とやりたくないと思っていることを、話した。

「じゃあ、それでいいじゃない」

「それに、ほんと助かってるんだから、子供の面倒見てもらって」

「そう、任せっきりにして甘えちゃってるし」

「そのうち『たまにはアンタが面倒見なよ!』って怒られそうで、ビクビクしてるんだよー」

 おどけて怯えるポーズを取るママ友。さらに大きな笑い声。

「あたしは仕事もしてないし、家にいても暇だし、子供たちのお守りでもしてないと気詰まりなだけだから」

 そう言うと、

「じゃあ、お互い様ってことで」

 大げさに偉ぶる素振りでファミレスのビニールソファーにふんぞり返り、おどけてそう言うママ友。これでまた、みんな大笑い。
 子供たちよりもうるさくて、そのうち店員さんに注意されちゃうかも。

 そんなことを思いながら、あたしの目はみるみる潤んだ。鼻水も出てきた。もう一度バカ笑いなんかしたら、その勢いで涙まであふれてきそうだ。

「みんな、ありがとう」

 震える声でひと言、辛うじて絞り出してから、あたしはトイレに駆け込んだ。

 大笑いしていたのに、いきなり一人で泣き出したりしたら子供に言われそう、「お母さんは泣き虫だ」なんて。


(つづく)

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心の重荷がおりた...


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/