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「オレはいつだって誇りのために闘ってきた」 エンセン井上インタビュー

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試合前は、いつも死を想う

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──それは現役時代にタップしなかったのと通じる話ですね。

エンセン それはもう全然別の話ね(笑)。深い話よ、それ。その話すると長いよ。ハハハ。

──それもこれも大和魂の話かと思ったんですけど。

エンセン 大和魂=強さ=タップしない、じゃない。それは全然関係ない。大和魂の考え方はもっと深い。

 選手がタップする理由わかる?

──苦しいから?

エンセン 違うよ。

──痛いから?

エンセン チョークは痛くないよ。腕十字も腕が折れるまで痛くないよ。次の日はめっちゃ痛いけど(笑)。

 みんな選手がタップするのは、想像して怖くなるから。たとえばチョークされて、自分が気絶するのを想像してタップする。

 だからタップしないのは、強い心とか、タフな人とかじゃないよ。タップするかしないかは想像力と集中力の問題。

 自分は腕十字で、折れる前にタップしなきゃとは思わないね。折れる前に逃げなきゃあ、折れる前に殴らなきゃあと考えて、そこに集中してる。

──でも、それで本当に腕が折られちゃうこともあるわけですよね?

エンセン そう。だから練習のときも心が決まってるし、リングに上がるときも、今日は死ぬかもしれない、と心で認めてる。

 楽しく試合をしようと思って試合して、それで腕が折れたら、ヤベー!と思っちゃうじゃない(笑)。でも死ぬつもりで行けば、腕が折れても、「あ、腕が折れただけじゃん」と思うでしょ? 腕がバキバキッって折れても、頭がパニックにならないし、その試合で勝てるように集中して考えてるね。

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PRIDE.5 vs西田操一戦(1999年4月29日)の入場シーン 映像はYOUTUBEより

 だからオレ、入場するとき、いつも恐ろしい顔して歩いてる。死ぬつもりで行ってるから。普通の人がスポーツで腕がバキバキ折れたらヤバイってなるじゃん。でも自分は死ぬつもりだから。

──若い人に指導するときもそういうことを教えているのですか?

エンセン 弟子には、タップしたらダメとか一切言ってない。考え方を教える。その考え方をきちんと吸収してもらえば、なかなかタップしなくなると思う。

 痛みが出るときや、怖いことを考えるときには、2つの道がある。

 ひとつは怖いものに勝つか、もうひとつは怖いものから逃げるか。そのときの考え方、心の強さによって、どっちかを選ぶ。だけどハードな練習をしているうちに、怖いものにぶつかったときには逃げない心になっちゃう。みんな勘違いしてるね。

── ハードな練習をして、怖いものから逃げなくなることが、強さじゃないんですか?

エンセン 怖いものがない人が、なんで自分は強いとわかるの? そんな人、ちっとも強くないよ。怖くても、目の前のものに集中できる人。それが本当に強い人。本物の強い人は怖いものがいっぱいあるんですよ。

 ただ怖くても、正しいことをやる。怖くても、試合に集中する。自分に手伝えることがあるなら、どこでも行っちゃう。それが強い男、大和魂の意味ね。

──最近の格闘技の試合をご覧になって、どう思いますか?

エンセン 今は変わったね。選手がスポーツ選手になってる、武士道じゃない。侍じゃない。

 格闘技で有名になると、お金になる、スポンサーがつく、それが当たり前になった。オレがやってたとき、お金と夢の光はなかった。自分の誇り、男としての闘いだったから、今の選手とはちょっと違うネ。

 おもしろいのは現在の格闘技の試合、審判の止めるところが、本当の侍の立ち会いが始まるところ。さみしいよ、それ。今のUFC見ていると、うわ、これからコイツがどんなことするのか、と思ってたら、そこで審判止めちゃう。ああーっ、見れないじゃん。そんな感じになっちゃう。

 スポーツなんだね。スポンサーがある。テレビ出てる。恐ろしすぎてはテレビはダメだから、仕方ないネ。