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その女が注射器を捨てるまで 第94話

あたしが逮捕されて苦しんでいる間も、子供は成長し続けていた。

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〜第四章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。


<第五章9 子供が教えてくれること>

子供の成長

 この"事件"をきっかけに、あたしはさらにいろいろなことを考えた。
 小さい頃からの母との出来事を思い出しながら。


 子供たちはバスケットボールをすれば、ドリブルをする子だけでなく、球を持っていない子までも無駄なくらいにピョンピョンと跳ねまわり、ドッジボールをすれば、どこで覚えてくるのか、よく通る声を張り上げて大人っぽいヤジを飛ばし、敵のミスボールを誘った。

 そんな動きっぱなしのスポーツ遊びが、長いときには二時間でも三時間でも休憩も挟まずにぶっ続けでされるのだから、子供たちの秘める力にはただただ驚かされた。


 駆け回る子供たちを目で追いながら、体育館のベンチに座って、何時間でも考え続けた。

 近すぎて見えなくなっていたことが、たくさんあった。
 狭い家の中で逃げ場を失って高まったストレスが、思い違いを生んでいた。

 優しかった母の記憶がどんどん思い出された。

 掘り起こされた思い出と戯れていると、これから自分はどうすればいいのかが、少しずつ見えてきた。

 ベンチに座り続けていると、たまに「お母さんも一緒にやろうよ」と呼ばれることもあった。
 それで、跳ね回る子供の輪に加わると、あっという間に息が上がって、目でボールを追うのがやっとという状態になり、子供たちに笑われた。
 でも、それも無性に楽しかった。

 子供の投げた球は思いのほか速くて、その球を受け止めてみると、お腹にドスンと重かった。そんなところにも子供の成長を感じて、何度も危うく涙をこぼしそうになった。

 子供は確実に大きくなっていた。

 あたしが東京でバカをやっている間も、あたしが逮捕されて苦しんでいる間も、子供は成長し続けていた。
 それがうれしくて、誰に対してかは自分でもわからないけれど、心の中で感謝した。

 そして同時に、

「自分もちゃんと成長しなければ」

 改めてそう思うようにもなっていった。


(つづく)



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子どもから学ぶことは多かった...



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/