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その女が注射器を捨てるまで 第93話

母が子どもを使って私を見張っている...いつのまにかそう考えるようになっている自分がいた

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〜第四章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。


<第五章8 子どものお守りをする理由>

犯罪者になることは自分だけの問題じゃない

 記事を読んだあと、両親といろいろ話し合った。

 長い話し合いで、あたしは自分のせいで迷惑をかけたことを謝り、そして、親は「そんなに気詰まりなら」と外出を許可してくれた。

 外出は「子供を同伴すること」という条件付きだった。
 あたし一人では不安なのだろう。

 行き先は、図書館の隣にある市営体育館。歩いて行けるところが、それくらいしかなかったから。

 翌日から早速、子供が学校から帰ると、子供と子供の友達を連れて体育館に通うようになった。

 なにをするでもない。あたしは、子供たちがドッジボールやバスケットボール、バドミントンや手打ち野球に興じる姿を、隅のベンチから見守るだけ。

 つまりは、お守り役。

 ......いえ、見守られていたのは、あたしのほうだった。


 ある日のこと、あたしは夢中で跳ね回る子供たちから離れて、自販機コーナーへ行き、缶ドリンクを飲みながらひと息ついていた。ぼんやりと考え事をしてはいたけれど、それほど長い時間ではなかったはず。

 それなのに、なんとなく視線を感じてあたりを見ると、柱の陰からこちらを窺う影を見つけた。

 ──またなの!?

 図書館でそうしたように、素早く柱の後ろに回り込んだ。約束を破って母が見張りに来たのだと思った。

 違った。

 そこにいたのは、あたしの子供だった。

「なにしてるの! そんなところでコソコソと!」

 つい、詰問口調になってしまった。
 怒りが湧いていた。
 母が孫を──あたしの子供を使ってまで、見張っていると思ったから。「子供と一緒なら外出してもいい」という言葉の意味を理解した気がした。

「おばあちゃんに言われたんでしょ!」

 子供は、うなずいた。

 やっぱり。

「どうして!」

 怒鳴るような問いに対して、子供は真っ直ぐにあたしを見上げながら、落ち着いた口調で言った。

「あのね、おばあちゃんがね、お母さんは『人より弱いところがあるから』って。だから『家族のみんなで守ってあげないとダメだ』って」


 衝撃。


 あたしこそ、いつの間にかお母さんを偏見の目で見ていたんだ......。


 とんでもないことに気づいてしまい、呆然と立ちすくむあたしに、子供が続ける。

「お母さんが悪いクスリをやったら、またケームショへ行っちゃうでしょ?」

 子供のやわらかい髪の毛を、くしゃくしゃに撫でながら言う。

「大丈夫だよ、心配しないで。お母さん、もう絶対にやらないから」

「絶対に?」

「うん、絶対にやらないよ」

 心配させて、ごめんね。

 子供にも、そして親にも、心の中で謝った。


(つづく)



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親はおろか子どもにまで心配をかけていたことにきづかなかったなんて...



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/