>  >  > 親に腹を立ててばかりいた、甘ったれな自分にようやく気付かされた。
その女が注射器を捨てるまで 第92話

親に腹を立ててばかりいた、甘ったれな自分にようやく気付かされた。

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〜第四章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。


<第五章7 未熟すぎた>

新聞報道

 母には母の事情とか考えというものがある。
 それを知ったのは、翌日のこと。

 図書館でも監視されていたあたしは、次の日、家から一番近いショッピングセンターまで行った。「一番近い」と言っても田舎のこと、徒歩だと一時間半はかかる距離。そこをあたしは意地になって歩いた。

 自由にできるお金をほとんど持っていないから、買い物はできなかったけれど、気詰まりな母の監視の目を巻いて自由に歩き回っているだけでも、あたしには充分楽しいことだった。

 広い店内をぶらついていると、不意に肩を叩かれた。振り返ると、同い年ほどの女性が立っていた。見覚えのある顔。

「レイ子......だよね?」

 中学校のときの同級生だった。
 手を取り合って、再会を喜ぶと、すぐ彼女は顔を曇らせた。

「大変だったみたいね」

 同級生は、あたしが覚醒剤で逮捕されたことを知っていた。

「びっくりしたよ。箱入り娘のお医者のお嬢が、いきなり覚醒剤だから」

 どこで知ったのかを聞くと、当然という口調で、地元紙に記事が載ったことを教えてくれた。秋田で逮捕された二度目の事件が新聞記事になったのだ。

 同級生とは電話番号を交換し、再会を約束して別れた。

「東京のこととか、今度はゆっくり、いろいろと教えてよ」

 その代わりに、共通の友達数人にも、あたしが帰って来たことを伝えてくれるようにお願いして、別れた。


 翌日、図書館で問題の記事を閲覧した。
 掲載された新聞は、路上駐車で勾留されてから六日目の日付。あたしの尿から陽性反応が出たことを、刑事に告げられた次の日だ。
 記事によると、久間木の逮捕から芋づる式に、あたしのほかにも三人が逮捕されていた。

 記事は面積にして板ガム二、三枚分の小さなものだったけれど、番地は伏せた実家の住所と一緒に、あたしの実名がしっかりと書かれていた。

 他人にとってはどうでもいい記事かも知れない。でも、知っている人にとってはインパクト充分の記事だ。
 何度も読み返しながら、前日の同級生の言葉を思い出していた。

「レイ子のことが新聞に載って、ご両親も大変だったみたいよ。お母さんなんか、近所のイヤミなババアたちにいろいろ言われてたみたいだし......、これだから田舎って嫌だよね」

 親は親で、あたしの知らないところで辛い思いをしていたんだ。

 あたしのせいで。

 それなのに、あたしにはそのことで文句を言ったりもせず、黙っていてくれる。

 母親が過敏なまでにあたしを監視する理由が、わかったような気がした。

 あたしは自分を理解してくれない親に腹を立てるばかりで、親のことをこれっぽっちも知ろうとはしていなかった。

 ......あたしは甘ったれだ。

 親に対して申し訳ないと思う気持ちと、自分の未熟さや自分勝手なところを責める気持ちが、交互に浮かんでは過ぎて行った。


(つづく)



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同級生から言われるまで、なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう...



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/