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その女が注射器を捨てるまで 第84話

懲役生活の中で、シャブ中同士語り合った。

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〜第三章まで〜
 覚醒剤を射ち始めて半年、ついに逮捕された玲子。留置場で倒れて入院するも体調も回復し、執行猶予をとりつけて再出発を果たしたかに見えたのだが...。親に見捨てられた玲子の一人暮らしを世話してくれた久間木だが、シャブ中の久間木にとっては所詮玲子もキメセクのオモチャでしかなく、またも玲子は警察に追われ「覚醒剤使用」容疑で再逮捕されることになるのだった。


<第四章18 Life In The Jail.2>


女囚仲間との出会い

 取り調べや裁判で話を聞いてもらえなかったことや、無気力に襲われて無実の罪を受け入れてしまったことに、怒りや後悔をまったく感じなかったわけじゃない。

 でも、それも、世間のしがらみから完全に切り離された懲役生活がもたらす安心感のようなもので、あっという間に薄められていった。


 雑居房で一緒になった同室の女囚たちに勇気づけられた面もある。

 八人部屋の雑居房には、あたしを含めて常に三人から四人の覚醒剤犯がいた。

 刑期を終えて先に出ていった人も合わせると、あたしは十一人の覚醒剤犯と知り合い、就寝前の自由時間に語り合った。

 そんな中で、思い出深い女性が三人。

 ハナさんは、以前のあたしと同じように、男と一緒に覚醒剤を注射していた。
 はじめのうちは二人で買っていたのに、いつの間にかハナさんだけがお金を払うようになり、最後はシャブを買うために彼氏の口利きで性風俗店で働かされた。

 ユカリも彼氏と一緒に打っていた。捕まっても、警察には彼氏のことは話さずに、ひたすら彼氏をかばった。
 男は留置場に何度も面会に来ては、「おまえのこと、いつまでも待ってるから」と涙をにじませたと言う。
 それなのに、実刑判決が下りてユカリが刑務所に移ると、手紙を書いても返事すらよこさなくなった。共通の知人に手紙で様子を訊ねると、しばらくして「女を作って引っ越して行った」と報告が来たという。

 ミホは、知人に無理矢理注射されて、錯乱しながらもクルマで必死で逃げるところを、スピード違反で捕まった。
 様子がおかしいので尿検査をさせられて、陽性反応が出て逮捕。無実を訴えても誰にも聞いてもらえず、獄中生活の辛さに追い打ちをかけるように夫からは離婚を言い渡され、今は独り。

 彼女たちは、あたしよりも悲惨だった。

 それでも強く生きていた。

「今さら文句を言ってもしょうがないからね。振り返ったって、なにがどうなるもんでもないから、思い出さないことにしてるよ」

 ミホは何度も言っていた。

「考えても仕方ないことは、考えないよ」

 ハナさんも、さばけた口調で言っていた。

「騙されたのも、変な男に捕まったのも、それでシャブやってパクられたのも、結局はあたしのせいでもあるんだから。それで他人に文句を言ったって誰も聞いてくれないんだから、過ぎたことなんて振り返るだけ損だよ」

 そう言って、風俗店でのあれこれを、おもしろおかしく話してくれた。

 ユカリも言った。

「前だけを向いていこうって。過去のことはしょせん過去のことでしかないから。振り返ってうじうじ考えてたら、いつまでもそこから抜け出せないよ」

 だから出所したあとのことしか、今は考えないと。

 出所してから起こるはずの楽しいことだけを考えて、懲役生活を乗り切るんだ、と。


 ハナさんもユカリもミホも、ひとしきりしゃべったあとで照れるからか、「現実逃避だよ」というようなことを付け足して笑うけれど、あたしは彼女たちの言うことは正しいと思った。

 正しくて、強くて、素敵な考え方だと思った。

 そして、自分の先行きにさえ無気力で無関心な自分が、少しだけ恥ずかしくなった。


(つづく)



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出所したときのことだけ考えて過ごした



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/