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その女が注射器を捨てるまで 第108話

試験後の答え合わせ...私は合格ボーダーライン上にいた。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章8 焦燥>

自己採点は合格ラインのギリギリ

 たった二時間の試験時間で、あたしはその日のエネルギーを使い果たした。

 図書館やアパートで問題集を解いているときは、そんなにかからないと思っていたのに、実際の試験では解答用紙をひと通り埋めるのに精一杯で、見直す余裕もなかった。

 マークシート用紙が回収されたあとも、あたしはすぐ帰る気にはなれず、しばらくの間、席に座ったままでいた。


 机に突っ伏していると、談笑する声が耳に入った。

 顔を上げると、大教室のそこここで、受験生の小さな輪ができていた。グループで受験に来ている人たちだった。

 耳に入ってくる会話から察すると、こちらのグループは建設会社の社員たちで、そちらのグループは建築事務所の同僚かなにか、あちらのグループは同じ病院に勤める人たち。

 ──終わったばっかりなのに、笑って話してるなんて、余裕だなぁ。

 それだけのことに圧倒された。

 三割の合格者っていうのは、こういう人たちなのかな?

 ただ、聞くともなしに会話を聞いていると、「部署の決まりで上司の指示だから、仕方なく試験だけ受けた」とか、「でも万が一、合格してたら給料に資格手当がつくようになる」とか、「せっかくの日曜に試験っていうのは勘弁してほしい」とか、やる気のない言葉も混じっていた。

 あたしのほうがやる気はあるし、切実なんだから!

 言いがかりのような憤りを感じた。

 それでも、グループ受験生が声高に答え合わせをしているのを聞いていると、解答の根拠までしっかりと自信たっぷりに話していて、「さすがは専門家だ」と、ちょっとだけ敬意を抱いたりもした。

 グループ受験生たちが自信たっぷりに口にする答えのいくつかは、あたしの解答とは違っていた。

「予備校で言われたところ、バッチリ出題されてたなぁ」

 合格を確信するような、余裕の発言がいくつも耳に入った。

 不安になったあたしは、アパートに帰るとすぐ、参考書や問題集を見ながら、答え合わせをしてみた。

 ......ギリギリ、かな?

 自己採点の結果では、七十点取れるか取れないか、ボーダーライン上にいるようだった。

 答え合わせをすると、どういうわけか間違ったまま覚えてしまった部分が発覚したりもした。

 ──何度も勉強したところなのに!

 自分の思い違いに、ギリギリと奥歯を噛んだ。

 参考書を見ても答えがはっきりしない問題もあった。そうした問題を正解として加算したバージョンと、不正解として数えたバージョンの二通りの採点をして、それぞれで得点を計算してみた。


 微妙な問いを正解として数えると、辛うじて合格。

 不正確として数えたら、惜しいところで不合格。

 七十点の合格ラインを、ふたつの集計結果は接するようにまたいでいた。


(つづく)



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あんなに必死に勉強したはずなのに...(写真はイメージです)



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/