〜第四章まで〜
シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。体を治すためと連れられた先は精神病院だった。抗えば抗うほど「患者」扱いされ隔離病棟で大量の精神薬を投与される毎日。無気力化された日々の中で、自分の鏡を見るようなシャブ中患者に囲まれ、刑を受ける事でしかこのどん底から抜けられない事を悟った玲子は、刑務所での懲役生活を決意。そして二年二ヶ月に及ぶ刑務所暮らしを経て、とうとう仮釈放を迎えシャバに出たのだった。
<第五章14 決心>
子供に許しを請う
仕事もダメ、家事もダメの実家暮らしでは、独り立ちなんて無理。
とにかく実家を出て、自分だけでもちゃんとやっていける姿を親に見せて、それで......。
そんなことを考えているときに、知り合いに「東京で新しく事務所を開くので、そこで働かないか?」と誘われた。
「寮もあるから住むところの心配はない」という。
絶好のタイミングだった。
前科があることを知りながら声をかけてくれたことにも、勇気づけられた。
迷った末に、この機会を活かすことにした。
今度こそ、親離れをするんだ。
まず、子供に相談をした。
夜、電気を消して布団に入り、深呼吸で息を整えてから、切り出した。
「あのね、お母さん、また東京に出稼ぎに行こうと思ってるんだけど......どう思う?」
しばらく、暗闇に子供の息だけが聞こえていた。
あたしは胸を締めつけられるような思いで、子供が口を開くのを待った。
二、三分は間があったろうか。
「いいよ」
子供の声は、落ち着いていた。
「お母さんがそうしたいなら、いいよ」
「またしばらく......、今度は長くならないと思うけれど......でも、やっぱり、しばらくは離ればなれになっちゃうけれど」
「いいよ」
子供の声は落ち着いていた。あたしの声は、油断をすると震えてしまいそうなのに。
「ずーっとじゃないでしょ?」
闇に慣れた目にぼんやりと映る子供に向かって、うなずくと、
「だったら、いいよ」
たまらず、子供を引き寄せて、抱きしめた。
「ごめんね、お母さんわがままで」
涙声で謝った。
「いいんだよ、離ればなれは慣れてるから」
その代わり、休みのたびに訪ねて行くから、ディズニーランドに連れて行ってくれと、明るく言った。
無邪気を装う子供に、「今度こそちゃんとしたお母さんになって、すぐにあんたを迎えに来るから」と、情けなく震える声で伝える。
「あんまり無理しなくていいよ」
子供をぎゅっと抱きしめた。「ありがとう」と「ごめんね」を交互に何度も繰り返しながら、強く抱きしめた。
子供の頭を抱く胸のあたりに、湿っぽくて温かい染みが広がる。
子供も泣いていた。
(つづく)

一度つないだ手を離すのは何よりも辛かった...
(取材/文=石原行雄)
石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/