〜第三章まで〜
覚醒剤を射ち始めて半年、ついに逮捕された玲子。留置場で倒れて入院するも体調も回復し、執行猶予をとりつけて再出発を果たしたかに見えたのだが...。親に見捨てられた玲子の一人暮らしを世話してくれた久間木だが、シャブ中の久間木にとっては所詮玲子もキメセクのオモチャでしかなく、またも玲子は警察に追われ「覚醒剤使用」容疑で再逮捕されることになるのだった。
<第四章13 マインドコントロール>
すべてを「妄想だ」とあざ笑われる
「薬が強すぎるみたいなんですけど」
週に二回の形だけの問診のときに、医師に訴えた。
「それに、どんな薬を飲まされているのかわからないから不安なんですよ。薬の名前とか種類なんかを教えてほしいんですけど」
医師はカルテから顔も上げずに、あたしを無視した。
一拍置いて、医師の脇に立つ看護師が、笑いながら言った。
「話したって、どうせわからないでしょ」
「看護師資格を持ってるから、ある程度はわかりますよ! それにそもそも説明義務っていうのがあるんじゃないですか?」
医師が顔を上げて、こちらに向き直った。顔には、わざとらしくていやらしい、やわらかい笑みが張りついていた。
「妄想ですよ。それもこのまま治療を続ければ、自然と治まるから、我々を信用してちゃんと薬は飲むようにね」
「いや、あの、本当に昔、看護師だったんですよ!」
医師の笑みが大きくなった。
まるで「はいはい」と適当にあしらうように。
「ちょっと調べれば、すぐわかることでしょ!?」
結局、この不毛なやり取りは、あたしの話など誰も聞こうともしてくれないという現実をあからさまにしただけだった。
強すぎる安定剤で薬漬けにされ、頭が思うように働かず、深くものを考えることができなくなった。
母が面会に来ても、とくに感想を抱かなくなった。強すぎる薬は視覚にも影響を及ぼして、談話室のテーブルを挟んですぐ目の前にいる母が、何十メートルもの遠くや、濃い霧の向こうにいるように感じたりした。
面会中に母がなにかを話しても、内容はほとんど頭に入ってこなかった。とにかく眠くて、「早く帰ってくれないかな」と、ぼんやり思うくらいだった。思うだけで、あたしは自分から席を立つこともできなくなっていた。
そして、母が帰ったあと、ベッドの上であぐらをかいたり寝そべったりして、差し入れのチョコレートやクッキーや、シュークリームやオレンジなんかを、貪った。
美味しいとか、美味しくないとか、そんなことを感じることは一切なく、ただ目の前に食べ物があったから、目につくそばから順番に、機械的に口に運んだ。
おかげで、体重はあっという間に六〇キロを突破し、入院して三カ月を過ぎる頃には七〇キロ台に突入していた。
覚醒剤のせいで激痩せしていたときの、二倍以上の重さになっていた。
(つづく)

もうなにか考えることさえおっくうだった......
(取材/文=石原行雄)
石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/