前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。
せめて手紙を書くことにするよ
2013年(平成25年)6月1日
土曜日は免業日だが、ここ月形刑務所は午前中にテレビはつかない。
午後も1時間だけしかつかないので、時間はいっぱいある。
この時間を利用して、許されるかぎりおふくろに手紙を出すと決めたのだから、書かなきゃ。
......とはいえ、あらためて便せんに向かっても、あまり書くことはないよナ。
離れていると、こんなにも思いやるものなのだ。
なのに面と向かうと互いに言いたいこと言うし、互いに気が短いのでたいがいケンカになる。
こんなことじゃいけないと、前刑のとき、シャバに帰ったら必ずおふくろにやってやろうと決めたことをノートに記した。
その内容を、シャバにいるあいだにいくつ実行できただろうか。
旅行に連れていったか? 劇場に行ったか? 映画だってチケット無駄にして、カラオケだって恥ずかしくて一緒に行ってやらなかった。
わずかな時間しかいられなかったシャバで、なんの親孝行もしてやれなかった。
だが、そんなことを、刑務所の中で後悔しても仕方ないのだ。
ノートに記したのは、シャバでしてやることのリストだ。
ここではできない。
だから、せめてやさしい言葉を選んで手紙を書くことにしようか......。