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俺の、最後の獄中絵日記 第145回

こっちから見えないということは、向こうからも見えないということ

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前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。


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素直になれなくて

2013年(平成25年)5月29日

この工場に来て俺が支給されたゴーグルは、レンズが傷だらけで下4分の1しか視界がない。

作業もしにくいし、視界が悪いのは一日中ストレスになる。

だから、もらったその日にクレームつけるも、「それしかないッ!」とオヤジは一蹴。

日を改めて、お悩み相談があったときも言ってみたが、「今日はそういう話じゃないッ!」とこれまた撃墜。

チクショウ。万が一、俺がケガしたときは、手元も見えないまま仕事させたせいだ!と言ってやる──とか怒りつつも、やっぱりそれじゃ自分がバカ見るだけで損だよナ。

とか考えつつ日々を過ごしてきたが、良いこともある。

なにが良いのかっていうとだね、俺が見えないのだから、相手からも見えないってことだ。

新入は必ずと言っていいほど、まず脇見で注意され、コテンパンに怒られている。

先制パンチのようなものだけどネ。

だけど、その他の人たちも脇見で引っ張られる人は多い。

オヤジの言い草はこうだ。「お前、今、俺と目が合っただろッ!」

どこのヤクザだよ

ところが、俺は今まで脇見で注意を受けたことがない。

だって理由は簡単だよ。ゴーグルが傷だらけで、オヤジには俺の目なんて見えてないんだから。

そのことだけ考えたら傷だらけも悪くないとかポジティブに考えて作業をやってたんだけど、どういう風の吹き回しかオヤジがサングラスタイプの新品に突然取り替えてくれたよ。

見通し良すぎて勝手が違うよ。

おかげで視線が動かせなくなっちゃったよ、なんてブーブー文句を言ったりしたけど、内心、優しいオヤジだな、と感謝した。

素直じゃないだろ、懲役って。

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