〜第三章まで〜
覚醒剤を射ち始めて半年、ついに逮捕された玲子。留置場で倒れて入院するも体調も回復し、執行猶予をとりつけて再出発を果たしたかに見えたのだが...。親に見捨てられた玲子の一人暮らしを世話してくれた久間木だが、シャブ中の久間木にとっては所詮玲子もキメセクのオモチャでしかなく、またも玲子は警察に追われ「覚醒剤使用」容疑で再逮捕されることになるのだった。
<第四章12 拷問のような問診>
両親の目の前で恥ずかしい話までもさせられて
また騙された。
そう思った瞬間、久しぶりの移動がこたえたのか、肋骨の下に痛みが走った。
肉が力ずくで破かれるような激痛。
取り調べの間、投薬治療を中断してしまったため、肝炎が再び悪化していたのだろう。
あたしは目の前にひとつ空いているイスに、黙って腰を下ろした。
イスに座ってうつむいて、背中を丸めて息を詰め、痛みが過ぎるのを待った。
──今は病院の専門をどうこう言ってる場合じゃない。とにかく治療をしてもらって、痛みをどうにかしてもらわないと。
そんなあたしの気持ちを見透かすように、医師が質問をしてきた。
今の痛みの状況に、これまでの治療の内容。
いやらしいくらいに柔らかい口調が、わざとらしくて耳についた。
「よく思い出してください」
チリチリと痛みの残るお腹のあたりをさすりながら、大ざっぱに答えていると、軽い感じで注意をされた。
調書を見れば前に通ってた病院なんてすぐわかるんだから、そっちからカルテを取り寄せればいいでしょ!
口にするのは面倒だったので、心の中だけで毒づいた。
医師はときどき、貧乏揺すりをするように丸イスに座りながら、コキコキと小刻みに座面を回転させるように動き続けた。うつむく視界の端でチラチラと白衣が揺れるのにも、イライラさせられた。
そうして医師は断続的にコキコキと動きながら、だらだらと質問を続けた。
嫌がらせ? それとも拷問のつもり?
これは、あたしの被害妄想なんかじゃない。
体調やこれまでの治療について聞き出すと、次にその原因になった覚醒剤使用について質問しはじめ、そして久間木に塗られたことについても聞きはじめた。
「そんなこと、答える必要あるんですか?」
抗議をすると、
「もし本当のことだったら、治療の上で大切なことだよ」
厳しい口調で言い返された。
あたしは医師に問われるままに、事細かに答えた。
久間木との関係、布団の中で夜どんなことをしてきたのか、そしてどんな状況でどうやって久間木は塗っていたのか。
親の目の前で赤裸々な話をさせられて、恥ずかしさと屈辱感で胸が苦しくなった。
すぐ後ろでする鼻水をすする音は、たぶん母のもの。でも、それを確認するために振り向くことなんてできなかった。
そのときだけじゃなく、もう永遠に母の顔なんて見られないと思った。
問診の結果、その場で「入院が必要」という診断が下された。
(つづく)

今まで生きてきた中でこれ以上はない恥辱だった......
(取材/文=石原行雄)
石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/