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俺の、最後の獄中絵日記 第126回

鼻歌は余計だったナ

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前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。


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「ムショボケ」じゃないよ


2013年(平成25年)5月9日

「満期ボケ」って言葉を知ってるかい?

仮釈の人は懲罰を受けたりしてせっかくの仮釈を棒に振らないよう神経質にもなったりするが、その点、満期上等の人間は違う。

オヤジに怒られようが反則して懲罰になろうが、何をしようがどうせ満期日は変わらないからネ。

だが逆に、この満期の奴がボケる。

もちろん出所するその日まで、いつもと変わらぬ立ち居振る舞いを崩さずに落ち着いて生活する人もいるが、うちの工場にいる満期出所目前のこの男は違った。

休憩時間も誰とも話さず、視点の定まらぬ目で遠くをボーッと見ている。

そして時折笑ったりもする。

気持ち悪いのは、急に照れた様子で真っ赤な顔になることだ。

なんとも不気味だが、まぁその気持ちは分からないでもない。

気持ちが完全に、シャバに出ちゃってるんだね。

これが「満期ボケ」ってやつだ。

そして「満期ボケ」には、ポジティブなタイプのものと、ネガティブなタイプのものがある。

大きなため息ばかりついて、頭を抱えてテーブルに伏せメソメソし出すのもいるよ。

おそらく、出所後の生活に不安のある奴がそうなるんだろうな。

そう考えるとポジティブな奴のほうがマシなのかもしれないが、うちの工場のポジティブ満期ボケ男は、浮かれ気分を抑えられなかったのか鼻歌を歌いながら作業していたらしく、隣で作業していた奴とは「うるせェんだ、あの野郎!」と一触即発のムードだったのに、当の本人はまったくそれに気づいていない。

どこか一点を見つめてヘラヘラ笑ってたよ。

本当、イカれちゃってんなアイツ。

俺は、ああはならないようにしよう、とつくづく思ったよ。


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