「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。
<第三章⑳ そして再び>
再びの尿検査
あたしは尿検査を受けることに同意した。
すぐにその場で、採尿がはじまった。
手順は四カ月前と同じ。女性警官が瓶を洗って、あたしが紙コップにおしっこをして、洗った瓶に移し替え、その一部始終を警官が撮影して......。あたしが元気だったので、前とは違ってすぐに終わった。
終わったところで帰れるものと思っていたら、
「ちょっと泊まっていってもらうから」
と、刑事。
「泊まるって留置場に? なにもしてないのに、そんなこと許されないでしょ!?」
抗議をしたけれど、「悪質な駐車違反の取り調べもしなくてはならない」と、取り合ってはもらえなかった。
別件逮捕だ。前夜に久間木から受けた以上の屈辱感に、その晩は寝不足にもかかわらず、一睡もできずに悶々と夜を明かした。
翌日から取り調べがはじまった。
内容は覚醒剤に関することばかり。
不当に留置されたうえで、もう見たくもないシャブを「また使っただろ?」と問い詰められて、我慢も限度を超えた。
前科持ちだからって、この扱いは酷すぎる!
「何度も同じこと言ってるでしょ? やってないもんはやってないんだよ!」
取調室で声が嗄れるまで怒鳴ると、あとはただ怒りに打ち震えながら黙り込むしかなかった。
「一度シャブにハマっちまうと簡単には抜け出せないんだよ。パクられたって釈放されたらすぐにまた注射して、その繰り返しで何度だって刑務所送りになるんだ......。懲りないヤツばっかりだよ、シャブ中は」
あたしがそうだと言わんばかりに、刑事は言った。
黙り込むあたしの怒りを煽るように。
そのたびに体の中で充満して行き場をなくした怒りのエネルギーが、首や腕をピクピクと小刻みに動かした。握った拳や首筋が、痙攣するようにブルブルといきなり震えだしたりもした。
留置場に閉じこめられた状態で怒りまみれの黙秘を続けて、五日目の朝。
あたしの寝起きする房に二人の警官を伴って、いつもの刑事がやってきた。
「尿検査の結果が出たから」
助かった!
やっと無実が証明されるんだ!
ほっとして、それだけで自然と笑みがこぼれる。
この喜びだけで、五日の間に受けた仕打ちを水に流してもいいとさえ思った。
「よかった、潔白でしょ!」
刑事は表情を変えずに、淡々と返してきた。
「落ち着け、いいか? 尿検査の結果を言うぞ......」
ありえない言葉だった。
「陽性反応が出た」
えっ?
「よって覚醒剤取締法違反、使用の容疑で再逮捕する」
......なんで?
(第三章 完)

ありえないよ.....
(取材/文=石原行雄)
石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/