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その女が注射器を捨てるまで 第55話

昔から一度も認められてなかったことを痛感させられた

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「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


<第三章⑫ そして独りになった>


「あなたとは、もう親でも子でもありません」

 母親についに見捨てられた。

 悲しかった。

 留置場での差し入れは、許してくれたからしてたわけじゃないんだ? シャブ中だったあたしを受け止めてくれるっていう意思表示じゃなかったんだ?

 都合のいいように勝手に解釈していた自分が恥ずかしい。

 段ボール箱から取り出す衣服は、どれもキレイに畳まれていた。TシャツならTシャツ、スカートならスカートと、同種のものが揃えられていて、デザインが時代遅れだったり首や袖口が伸びたりしていなければ、そのままお店にディスプレイされても違和感がなさそうなほど、きっちりとしていた。

 お母さんのやり方だ......。

 母は洗濯済みの衣類も、ぴしっと整えなければ気の済まない性質だった。

 小学生の頃、二、三度だけ洗濯物の取り込みを手伝ったことがある。

 手伝いといっても、母と一緒にしたのではなく、あたしが勝手にやっただけ。物干し竿に並ぶ洗濯物を取り込んで、母の手つきを思い出しながら折り畳み、タンスの引き出しにしまった。

 気を利かせたつもりのあたしは、早く褒めてもらいたくて、わくわくしながら母の帰りを待った。

 帰宅した母は、あたしが洗濯物を取り込んだことを知ると、「ありがとう」とは言ってくれた。

 けれど、引き出しの中身を取り出して、畳み方が良くない点を指摘しながら、問題のある服を畳み直した。
 
 結局、ほとんどすべてが母の手で畳み直された。

 お手伝いの三度目くらいには、母は畳み直しながら「二度手間になるから、もうやらなくていい」と、あたしを見もせずに言った。

 勉強もダメならば家事の手伝いもダメ。自分のダメさを思い知らされるようで悲しく、それ以来、家事にはなるべく手を出さないようになったっけ......。

 湧き上がる思い出の底から、現実がひとつ顔を覗かせた。

 信用をなくすようなことをしたのは、あたし自身なんだ。

 だから、絶縁されても仕方ない。

 タバコも吸わないと思っていた娘が、ある日突然覚醒剤常習者だとわかって......、一番戸惑っているのは母や父なんだ。

 現実を受け止めきれずに、どうしていいのかわからないに違いない。

 そんな親を責める資格は、今のあたしにはない。そう納得しようとした。

 失うものは、すべて失った。

 親にまでも見捨てられた。

 これからは独り、強く生きていかないと──。

 割り切って、決意を新たにした。



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結局一度も愛されてなかったんだ



(つづく)


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/