
東京の繁華街を、誰にも頼まれていないのにプライベートで警備し続ける男、コウノ。
四十代無職、住所不定。
趣味は「カネになりそうなものを拾うこと」
このコーナーは、そんな彼による私的パトロール活動の貴重な記録である。
TOKYOの平和は、実はこの男のおかげかもしれない。(R-ZONE編集部)
新宿で巨猿を目撃したと入電
新宿・歌舞伎町に夜な夜な現れては、電線をブラブラ移動する巨大猿がいるという。
街頭の防犯カメラに、その姿がしっかり映っていたらしい。
大きさはゴリラなみ、ときには電線から飛び降りてサラリーマンからカバンを奪い取ることもあるらしい。
誰が名づけたのか、その猿の名前はジーラ。
「新宿猿ジーラ」。
かなり凶暴で、ヒトをさらって食用にしてしまうという噂も耳にしたことがある。
しょうがないけど、俺が行くしかないだろう。
ジャケットを煽り、俺は街へ飛び出した。
夜の歌舞伎町で、コウノは聞き込みを開始する

ジーラはどこだ!
新宿・歌舞伎町。
いつ来ても「ワルい空気」が充満している。
ココの空気で風船を膨らませたら、風船の表面にクッキリと「悪」という文字がドス黒く浮かび上がるにちがいない。東京に暮らしはじめて20年以上経つが、この街と六本木だけはいつまでたっても慣れない。
カブキモノ(歌舞伎町の住人)たちの容赦ないローカル圧力を全身に浴び、カラダのあらゆるパーツが萎縮しつつも「新宿猿ジーラ」の捜索をおこなうべくパトロールを開始する。
だが、開始するやいなや、謎のポン引きに行く手をはばまれた。
(もしかして何者かが、俺の行動を監視している!?)

「上物のDVDあるよ」(ポン引き)
臓器がマトモに機能していないのか、泥のような顔色だった。
俺は、ポン引きの誘いをクールに断った。

「......いや......大丈夫デス」

ポン引きの顔色が泥から汚泥へと変化した。
どうやら俺の対応に苛立ったようだ。

「......やっぱり買おう......かな」

「じゃあ、俺のあとをついてきな」

「あ、あの、ところでジーラって名前の巨大猿の噂って聞いたことあります?」
気のせいか、ポン引きの瞳がギラッと光ったように見えた。
俺はもしかしたら地雷を踏んでしまったのかもしれない。

「猿?」

「は、はい」

「巨大な?」

「は、はい」

「......聞いたことないね」
否定するのが早過ぎた。あきらかに不自然なリアクションだった。

「あっ!!」
ポン引きはいきなり大声を上げた。

「ハクビシンなら見たことあるよ」

「ハ、ハクビシン......ですか?」

「うん、1メートルぐらいの、茶色でデカいヤツ」

「......大きいですね」

「ソコの路地で2、3回見たよ。ひょっとしたらハクビシンを巨大猿って勘違いしたんじゃないの?」
そして、ハクビシンの生態についてとうとうと語りはじめたポン引き。長くなりそうだったので「貴重な情報ありがとうございました。今度そのパコパコママっていうの必ず買い行きます」と、むりやり話をさえぎった。
嘘じゃない。
東京で一番アウトローなメディアであるR-ZONEならきっと、裏DVDだって経費として認めてくれるはずだから。(編集部註・絶対に認めません)
その後、数十分パトロール(という名の深夜徘徊)してみたが、ジーラを目撃することも有力な情報を得ることもできなかった。
ジーラが巨大猿なのか、はたまたハクビシンの見間違いなのかは定かではない。
ただ、歌舞伎町でエンドレスに流れている「客引き行為は禁止されています」というテープの音声はまったくあてにならない、ということだけは確かだった。

ここがハクビシン(ジーラ?)の目撃された路地だ!
(取材/文=コウノモトウ)