前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。
ゴールデンウィークもそろそろ終わり
2013年(平成25年)5月4日
今日は菓子にサッポロポテトバーベキュー味が出るらしい。
朝食が終わって9時30分になると映画が始まる。
9時頃には、すでに廊下の入口に菓子の詰まった段ボールが届いている様子なのだが、担当の気分次第でそれぞれの舎房に配られる時間は異なっているらしい。
昨日3日は映画の始まりと同時に菓子は届き、ゆっくりと映画を観ながら食べられて良かった。
しかし、そんな日はまれであると言ってよい。
たいていの場合、映画も終わったあとの、すぐに昼食、という嫌な時間帯に配られたりする。
それが気に入らなきゃ受け取ってもすぐに喰わず、昼食が終わって本当のおやつの時間に食べれば、と思うだろうが、そうもいかない。
受け取ったら、すぐに封を開けずにはいられないのだよ。
この菓子を入れる時間、普通の人ならば「映画を観ながら、ゆっくり喰わせてやろう」と考えるだろう。
それを、わざとジラして、変な時間に配るのは、人の悪さなのか。
雑居房で菓子を待ちわびている懲役の身としては、どんな事情があるにしても、「敵もなかなか俺たちに良い目は見せないつもりだな」と良くは受け取らない。
ソワソワしている姿を見られたら、菓子待ちでガッツいていると敵に悟られ、ニヤニヤ笑われて思うツボだからな。
たとえ窓が開いて菓子が入ってきても、「へぇ、そういえば今日は菓子が出るんだっけ」くらいの感じでいこう──なんて同じ房の懲役と言っていたが、いつまでたっても菓子は入ってこない。
もう少しで本当に映画も終わっちゃうぜ。
いつ菓子来るんだよ──と、その次の瞬間、待望の窓が開いた。
さっきの打ち合わせはどこかに吹っ飛んで、全員、窓を振り向いて、やっと来たよと満面の笑み。
すると、オヤジは「回覧新聞」と言って、新聞を置いていった。
菓子ではなかったのだ。
あれほど綿密に打ち合わせしてたのに、簡単に全員が手玉に取られてしまった。
うーむ、敵もなかなかやってくれるぜ。