前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は現在、北海道は月形刑務所で服役中。こんなことは今度で最後!と心に決めた武二郎は、今のみじめな境遇をいつまでも忘れないために、日々の暮らしを支給された唯一のペン=ボールペン1本で描くことにしたのだった。
シキテン癖
2013年(平成25年)4月20日
府中刑務所では、朝以外に顔を洗っているのを見つかったら懲罰だ。
パチンコ台を壊して真っ黒になっても、作業の終わりに一分間足を洗えるのみ。
入浴のない日は、そのまま帰って寝るしかない。
枕カバーもシーツもすぐ汚れてしまう。
これのどこが人間の生活なのかって思った。
タオルを濡らすことさえ許されない府中に対して、ここ月形刑務所は、舎房でいつタオルを洗おうと顔を洗おうと咎められる事はない。
頭では判っているつもりだったが、身体には府中が染み込んでいたようだ。
免業日の今日、午前と午後に15分ずつあるストレッチの日課を終えると、春めいてきたせいか、うっすら汗ばみ顔を洗いたい衝動に駆られた。
そこで、廊下側の窓を盗み見ながら、コソコソと顔を濡らしたりしてみて気が付く。
ああ、別にゆっくり石鹸で顔を洗ったってここはいいんだった。
だって人間なんだから。