>  >  > 覚醒剤を抜くための逃避行も、ついに指名手配の札が出た
その女が注射器を捨てるまで 第44話

覚醒剤を抜くための逃避行も、ついに指名手配の札が出た

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。


第二章まで
ミツオと出会い、幸せを掴んだかに見えた玲子だったが、ぎっくり腰の痛み、そしてミツオのいない寂しさから逃げるために手を出してしまった覚醒剤。共に暮らしていたミツオまでが深みにはまり、幻覚幻聴に苛まれて、とうとう錯乱。暴力の果てに玲子も手首を切って...命を取り止めるも警察に追われる身となり、逃避行に旅立った玲子。その行く手には何が待ち受けるのか。


<第三章① 指名手配>

シャブ抜きのための逃避行

 どこをどう走ったんだろう?

 飯場を飛び出してから丸二日後の夜も、あたしはまだ高速道路を走っていた。

 途中、高速道路を降りて一般道を走ったり、方向転換して東京方面に戻ってみたり、疲れが限界に達したらクルマの中でそのまま仮眠して、目が覚めたらまたクルマを走らせたり......。そんなことを繰り返しながら、あたしは福島のあたりを行ったり来たりしていた。

 尾行を撹乱するつもりでそうしていたような気もするけれど、単純に迷っていただけのような気もする。正直なところ、そのときのことは今でもはっきりとは思い出せない。そんな状態で運転していて、事故を起こさなかったのが不思議なくらい。

 意識がそれなりにはっきりしてくると、あたしは自分が夜のサービスエリアにいることに気づいた。そして、急に飯場のことやミツオのことが気になって、久間木に電話を入れた。

「もしもし......あたし。レイ子です......」

 久間木の声は緊迫していた。

「レイ子か? おまえ、どこにいるんだ? 心配してたんだぞ。もたもたしてないで早く秋田へ行けよ」

「ちょっと道に迷ったりしてて、それで......」

 遮るように久間木が言った。

「おまえもいよいよヤバいぞ。ミツオがパクられた」

「警察に捕まったの?」

「そうだ。それで刑事やら警官なんかが捜索に来たんだ、おまえたちの部屋に」

「......それで?」

「なにもかも見つかったとさ。それで......しっかり聞けよ」

 一拍置いたあと、久間木は声をひそめて言った。

「ポンプからおまえの指紋も出たんだとよ。レイ子、おまえ指名手配になったぞ」

 指名手配?
 完全に犯罪者ってこと?

「レイ子は指名手配犯だから、かくまったら俺もマズいんだと。刑事が俺の部屋に来て脅していった」

 指名手配犯。その言葉を聞いて、改めて自分がしていることの意味を考えた。

 犯罪者の烙印を押されて、社会から抹殺されるんだ......。

 気が遠くなりそうなところを、久間木の言葉で現実に引き戻された。

「とにかくおまえ、すぐ秋田の飯場へ行って身を隠してろ。そのあとのことはシャブが抜けてからの話だ」

「わかった」とかなんとか、適当な返事をして、電話を切った。

 でも、あたしは秋田へ行く気力を失っていた。

 自分のしでかしたことの重さを受け止めきれずにいた。飯場を出てから何度目かの、怠さと寒気の大波が襲いかかってきた。

 もう、いいや。

 指名手配という言葉を聞かされて、すべてがどうでもよくなった。

 子供や好きな人と家庭を築くために東京に出稼ぎに来たつもりだったのに、あっと言う間にシャブ中になって、犯罪者にまで堕ちていた......。知らないうちに、ずいぶん遠いところに来てしまったみたいだ。

 死のうと思った。手首を切ったときの気持ちに戻っていた。

 脱力感。

 投げやりな気持ちで思った。

 ──もう死のう。死ぬしかないんだ

パトカー夜.900-500.jpg

逃げるということにさえ疲れてしまった


(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/