違反キップに凹むドライバー
若い警察官が違反キップを切るそばで、1BOX車のドライバーがつぶやいた。
「これで免停(免許停止処分)だ。仕事ができなくなる」
1BOX車の様子や、ドライバーの服装等からして、建築関係かなにかの自営業と思われた。
自分ですべてをこなす自営業者は、何度も取り締まりを受け、とうとう免停になってしまうことがよくある。
自業自得とはいえ、この不景気のなか、取り返しのつかないダメージになりかねない。
「そうか、わかった。今回だけは指導警告にとどめる。標識をよく見て、遵法意識をしっかり持ちなさい。次はないよ」
という形にすることもできる。
昔の統計を見ると、取り締まり件数より指導警告の件数のほうが多かった。
しかし、1968年に反則金制度がスタート。統計から指導警告の項は消え、取り締まり件数が激増した。
とくに待ち伏せ取り締まりは、違反しやすい場所で待ちかまえ、とにかくキップを切ることを目的としている。指導警告なんぞまず期待できない。ドライバーはだいぶガックリきているようだった。
俺は可哀想になり、こんなふうなことを言った。
「警察は反則金を稼がなきゃならないんでねぇ」
1人の警察官(階級章は巡査部長)が血相を変えた。
「今のは聞き捨てならないです。どういうことですか!」
「まぁ、いいじゃないですか」
「あなた、この人(捕まったドライバー)の関係者ですか」
「いえ、ぜんぜん関係ないです。ただ通りかかっただけです」
「ここで何してるんですか!」
「べつに。ここで立ち止まってちゃいけませんか?」
「運転者さんが迷惑してる!」
俺はドライバーに言った。
「あっ、それは気がつきませんでした。ご迷惑だったですか、申し訳ないです」
すると、ドライバーは言うのだった。
「いえ、私が可哀想に思って、なんというか、応援してくれてるんだと思います......」
その言葉が、どう言っていいのか、俺の胸を打った。