〈前回までのあらすじ〉
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は、北海道の月形刑務所で服役中。関東で生まれ育った武二郎にとって、真冬の北海道は目新しいものばかりだった!
おふくろよ!
2013年(平成25年)3月14日
作業中、オヤジに呼ばれて"環境調整報告個人告知書"という書類に指印を求められる。
お袋の待つ実家が帰住可を認められた、との事を、本人にちゃんと教えましたよ、という書類だ。
要は柄受け※1が許可になった、という事だ。
これがダメだと、柄受けを保護会※2に切り替えなくてはならない。
それでも決まらなければ仮釈放はもらえない。
もっと簡単に言うならば、この書類は、仮釈放をもらうための最低条件がびしっと整いましたよ、という通知なのだ。
良い知らせが受刑生活の早い時期から出てくれて、ホッとする。
親がすでにこの世に居ない人、兄弟がいても断られた人、女にしてたのが逃げられてしまった人......、誰にでも柄受け人がいるわけじゃない。
なかには、出所後に働く予定になっていた職場の雇用主がいったんは引き受けてくれたものの、出所する直前に倒産でその人が夜逃げしてしまい、仮釈が取り消された人もいる。
そんな色々と不幸な人がいっぱい居る中で、俺の柄受けは今回もお袋が引き受けてくれた。
今回で4回目だ。
それが恵まれた事だと今さらやっと身にしみた大馬鹿者だが、見捨てずに今度もまた引受人の件で首を縦に振ってくれたおふくろに約束しなければならない。
おふくろ、これが最後だ。
※1 柄受け......がらうけ。身元引受人のこと
※2 保護会......正式名称は「更正保護施設」。仮釈放に必要な身元引受人が立てられない人が、その代わりに身元を引き受けてもらう団体