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俺の、最後の獄中絵日記 第74回

お前は違う

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〈前回までのあらすじ〉
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらった後藤武二郎は、北海道の月形刑務所で服役中。関東で生まれ育った武二郎にとって、真冬の北海道は目新しいものばかりだった!


お前は違う


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先日、工場の衛生係が突然、転役となって工場を移った。

この刑務所ではよくあるらしいんだよネ。

転役になる日は、その彼だけひとり、出役せずに房に残る。

これを"残房"というのだけれども、もしかしたら工場で作業中に転役を告げたら誰かともめたりするかもしれない、オヤジたちのはからいなのかもしれない。

ちらっと見たら、当日の朝、彼に配られた飯の食等※1が"特A"だったので、内装か農業、もしくは営繕へ行ったのは間違いない。

結果的に栄転だよ。

だってそれらの工場の多くは開放房だし、すぐに2類※2にあがるだろうし、他の工場に比べてもはるかに待遇が良いからだ。

内装なんかは今、外の雪かきをしていて、中には泣きながらやってるのもいると聞いたけど、栄転した彼はレスリングあがりの格闘家で毎日30分の運動では物足りない様子だったので、これまたラッキーだったんじゃないかな。

そして先週末に、もうひとり残房が決まった。

舎房の配食係をしていた彼は、俺たちの舎房に飯を入れながら「明日は残房なんで、お世話になりました」と嬉しそうに言ってきた。

先日、タケサンがイラッと来てた溶接班の若い奴※3だ。

「おそらく、次は内装ッすネ」と良い工場に移る気満々だ。

しかし皆知っている。
そんな良い工場に移れるわけはないのだ。

なぜ転役になるのか君は知らないだろうが、君の悪事はいろいろチンコロされていたのだよ。

「チンコロしましたよ」と平気で俺たちに言ってくる奴がいるのには、驚いて、恐いと思ったけど、それを知らずに喜んでる彼にはいささか同情する部分もあったよ。

翌朝、彼の飯は"B"だった。

今より悪いモタ工場※4で行かされちゃうんだナ。

おーい、君は栄転じゃないんだよ~~。

※1 食等......食事の等級のこと。、郊外作業などで著しく体力を使う作業に従事するものには量の多い"特A"が配給され、以下、体力を使わない順に等級が下がっていく。
※2 2類......受刑者を受刑成績などに応じて、生活や行動の制限を緩めるというもので、1~4種の制限の緩和があり、数字が小さいほど緩和措置が大きい。
※3 この男のエピソードはバックナンバーを参照のこと。
※4 モタ工場......一人前な刑務作業ができない受刑者(能力的に作業が難しい人、病人、高齢者)=モタモタした人ばかりをあつめられた工場のこと。