「あたしシャブ中でした」
元覚醒剤常習犯、阿佐見玲子。
厳格な家庭に育ち、息の詰まる毎日だった少女時代。
そして男と出会いようやく幸せの糸口を掴んだかにみえたとき、魔物が心の隙に忍び込んだ。
ひとときの痛みから逃れるために手を出してしまった覚せい剤。
そこから運命の歯車は狂っていくのだった。
この物語は、そんな彼女の転落と再生の軌跡をたどった実話である。(取材/文 石原行雄)
ついに逝っちゃった...
ミツオがまた、あたしの浮気を疑っていた。
喫茶店に行かなくなってから、かなり経っていたし、ミツオの気分を害して殴られるのが嫌だったから、あたしは極力、男の人とは接触しないようになっていた。そもそも、一緒に射つようになってからは、仕事以外は四六時中ミツオと過ごすようになっていた。
そう釈明しながら、
「だから男を作る暇なんてないよ。そもそも作りたいとも思ってないし」
そんなあたしの言葉を遮るように、ミツオが言った。
「いや、今隠れたぞ?」
ミツオはあたしの下半身を凝視していた。
「スカートの中に隠れなかったか?」
ミツオの視線は、部屋着のスカートに注がれていた。
「動いてるぞ? 中にいるんだろ?」
その頃の一番のお気に入り、淡いグリーンの部屋着のスカート。気に入っていた理由は、ゆったりとしていて汗で張りつきにくかったから。
そう、あたしはその頃、部屋にいるときは、たいてい注射を射っていた。
「おい、スカートの中に男がいるんだろ?」
最近って話じゃなくて、まさに今ってこと?
なにかの冗談かと思ったけれど、ミツオの表情は真剣そのもの。
茶化すと殴られそうだったので、まじめに答えた。
「隠れてないよ、男なんて」
「いや隠れたぞ。サッと、な」
水掛け論になる。そうなれば無駄に疲れるし、やっぱり最後は殴られるだけ。
あたしは立ち上がってスカートを捲り上げ、中を見せた。
「ほら、男なんていないでしょ?」
バカにしてると取られないように、イントネーションに注意して答える。
上半身はブラジャー一枚、下はショーツ丸出しの姿で。
「いや............いや! 今、下着の中に入ったぞ! サッとな!」
ミツオはこれ以上ないほどに眉を吊り上げ、眉間には深々と皺を寄せ、ギョロリと目玉を剥いていた。
その目はギラギラしていた。
欲望のギラつきじゃなくて、怒りの口火がついたギラつき。
そう感じたあたしは、慌てて脱いだ。
スカートもショーツも。
足首から抜いたショーツを伸ばして広げて見せながら、
「ほらね、どこにも男なんていないでしょ?」
剥き出しの下半身と、あたしの差し出すショーツをしばらく交互に眺めたあとに、ミツオは続けた。
「あそこに隠れたんだよ」
ミツオはあたしのカラダを点検するように触りはじめた。
あたしは、ミツオのいいようにされながら思った。
この人、もう完全に壊れちゃったんだ......。

錯乱して手のうちようがなかった(写真はイメージです)
(つづく)
取材/文=石原行雄
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。
著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/