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作家・出石大の思い出 第2回

拳銃(チャカ)

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「お疲れ様です!」

 出石大さんからの着信だ。名前が点滅した瞬間に出る。出石大は「元極道作家」だ。かの世界では、電話はワンコールで出るのが常識だという。だったら、出石さんの電話だけは、なるべく早く出たほうがいいだろう。もしかしたらそれで機嫌をよくしてくれるかもしれない。

元極道作家の異色な営業スタイル 

「もしもし」

 あれ? 全然機嫌が良さそうな声じゃない。いわゆるドスが効いた声。それにしても、なんだってこんなに低いキーで「もしもし」と言うのだろう。

「さっきよ、うちにガサが入ったんだよ。だからよ、なんか話のネタにでもなるんじゃねぇかなと思ってよ。李ィに電話してみたんだよ」

 だが、これが出石さん流の営業電話なのだ。一般人にはとても体験できないネタが入ると、「こんな話があるが、よかったら俺に原稿を書かせてみないか」という電話をくれる。この電話も、まさにそれだった。

 それにしても、ガサって......。このとき入ったガサが、なんの嫌疑だったか正確には覚えていないのだが、確か拳銃のなにかにまつわる捜査だった記憶がある。

印だらけのガン雑誌

「俺もチャカは嫌いじゃねぇんだよ」

 時間は少しさかのぼる。ガサ事件の一ヶ月か二ヶ月前のことだ。記者が当時、勤めていた会社の雑誌で、出石さんに「最近の拳銃事情」みたいな記事の執筆をお願いしたことがあった。その打ち合わせでご自宅を訪ねると、出石さんはガン雑誌の増刊号のようなものを見せてくれた。それは銃の写真集というかカタログのような本だったのだが、そのうちのいくつかの銃の写真に、なぜか丸がつけられていた。

 それは、自分が撃ったことのある銃と、持ったことのある銃につけられた印だった。今から思えば出石さんは、ずいぶんと拳銃が好きな人だった。

「このW(=ブランド名)はな、俺もハジいたことがあるんだけど、レンコン(=リボルバータイプの拳銃のこと)のほうが俺の趣味にはあってるな。暴発する心配もねぇしな」

 ガン雑誌に載っていた、ある銃の写真を指しながら、出石さんが言った。それはドイツ製のオートマチック拳銃で、しかもレーザーポインタの付いた最新の機種だった。そんな最新の拳銃をどこで撃ったのか、尋ねるのはやめておいた。ハワイかフィリピンの射撃場に違いない......きっと......たぶん。

 そう、晩年の出石さんはどんどん「作家」になっていくのだが、この頃はまだ「現場」にも携わっていたようだった。

 その現場にいたことのなによりの証明が、今思えばあのガサだったのだ。リアルな現場に立ち会って原稿を書き、さらにガサ入れを喰らって、それも原稿にする。そんなことを繰り返しながら、出石さんは少しずつ活動の場を広げていった。随分と身体を張った執筆スタイルだと、今さらながら驚く。

 次回は、実際に立ち会わせてもらった危ない取材現場を紹介しよう。


(取材/文=李白虎)

射撃.jpg

(写真はイメージです)