>  > 現役ドラッグディーラーが語る「危険ドラッグと製薬業界の闇」
密売人リューの告白 第3回

現役ドラッグディーラーが語る「危険ドラッグと製薬業界の闇」

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ドラッグディーラーのリューは言う。
「結局、合法ドラッグが──いまは危険ドラッグか、まあ呼び名なんてどうでもいいんですけど──こういうのが日本人のメンタリティに合うものだったんですよね。残念ながらとしか言いようがないんですけど」


日本人の健康<日本の法律???

 第2回ではリューが「脱法ハーブ、合法ドラッグという発想すること自体、頭がおかしい」と、感情を剥き出しで話した理由について取り上げた。日夜、非合法の稼業に明け暮れる犯罪者の言葉が、こと「合法ドラッグ≒脱法ハーブ≒危険ドラッグ」を批判するときだけ、正義を叫んでいるように見えてしまうのが、どうにも記者にはおもしろく映るのだがそれはさておき、それらの一体何が日本人のメンタリティーに合っていたのか。

「要は合法だからOKで、非合法だからNGっていうお役所的な発想ですよね。健康被害とか、副作用とか、そういう人間らしい観点がまったくない。まあ僕ら売人の間では愚痴のように日々交わされる会話ですけど、大麻所持で逮捕の報道はあっても、大麻で死亡の記事なんて見たことないわけですよね。別に大麻を合法にしろって話ではないですよ。そうじゃなくて、例えばアメリカの政治家で大麻を見たことがないなんて人は常識的に考えて多分半分もいないですよ。大麻を擁護したいのではなく、大麻なんてしょせんその程度のものでしかないってことなんですけど、わかります?」

 リューの言っている話の道義上の問題はさておき、確かにアメリカの映画やドラマを見ていればいくらでも大麻を吸うシーンは出てくる。『テッド』を見て笑い転げる友人の顔をいくらでも思い浮かべることができるし、日本の海外ドラマの特集ではあまり取り上げられないが、『ザ・ワイヤー』は傑作だと思う。『ザ・ワイヤー』はボルチモア市警とドラッグディーラーの戦いの話なのだが、主役は刑事よりも売人と言っていい。売人がこれくらい身近なのが、アメリカの世相の病み方のひとつの反映のようにも思えるのだが、それについてはいずれ稿をあらためて述べることにするとして──話を戻そう。

「良質な大麻は美味しいワインやシャンパンを嗜むのに似てる」というリューの主張は、アメリカの映画やドラマにおける大麻喫煙シーンを見る限り、確かに一面の真実は捉えているように思えなくもない。

「だけど、日本だとドラッグの描写は全部『アキラ』になっちゃうんですよ(笑)。もうなんだかわかんないけど、ブッ飛ぶ、という。大麻も覚醒剤も危険ドラッグも、描かれ方は全部一緒。現場の刑事が危険ドラッグを『シャブより危ない』と言っているのを聞いたこともありますし、現役のヤクザにも同じことを言われたことがある。でも、そういうリアルな現場の声がテレビで流されることはないし、大麻を吸っている人間を警察官が大目に見る、なんてことも絶対にない。つまり現場の声なんて何の意味もなくて、お役所的な価値判断しか優先されないってことですよ。そしてそれが日本の社会では常識なんです」

考えるな、感じるな

 リューの言葉は、非合法稼業に従事する人間にありがちな安易な自己肯定を含んでいるものの、確かに一理あるようにも思えた。大麻は実は身体によいとか合法にすべき......という大麻信者の意見はひとまず置いておいて、これからグローバリゼーションがさらに進むことを考えれば、大麻程度ものは目くじらを立てるほどのものではない、というくらいの認識に改める時期が来たのではないだろうか。

 医師に処方された錠剤を噛み砕きながら、大麻をくゆらす欧米人を白眼視する日本人......という構図は、なにやらタチの悪い冗談にしか思えない。

「今はさすがに包括規制※1されて変わりましたが、少し前までは成分の枝葉の部分を変えたら、合法的に扱いになっていたわけですよね。では、なぜ包括規制が日本では遅れたのか、理由はカンタンですよ。日本の医療業界の新薬の開発とぶつかってしまうからですよ。日本の薬剤メーカーは、細部を少しだけ変えた薬品を、新製品として売り出していた。それが、すべて最初の薬品のジェネリックだ、ということになったら薬価が大暴落して薬剤メーカーはバタバタ倒産しちゃうでしょうね。こういうのは結局、すべてお上の利益に直結する話ですよね。とんでもない額が動く業界ですから。だから危険ドラッグの問題は、本当に日本らしい話なんですよ。いくら現場で危険だと叫ばれていても、死人が何人も出ないと動けないし動かない」

※1 包括規制......細部が少し違うだけの類似薬物をまとめて規制対象に指定する、ということ。日本では2012年の法律改正以降、この考え方が取り入れられた。

 これはジャンキーのカングリのたぐいかもしれない。だが、このリューの言葉をはっきり否定できる材料を我々が持っていないことも事実である。とは言え、危険ドラッグの取り締まりが遅れた原因を、医療業界のお役所体質だけに求めるというのも酷な話だろう。危険ドラッグ被害の真の闇は、このお役所体質に相まって、アンダーグラウンドの住人特有の発想が広げたものだというのがリューの主張だ。

 次回その核心について触れよう。


(取材/文=李白虎)



018.JPG

国立精神・神経医療研究センター(東京)の調査によれば、"合法的な"処方薬の服用で薬物依存症になった患者の割合は平成12~24年の12年間で約2倍になったという。関係者からは「安直に処方し続ける医師側にも責任がある」という指摘も上がっているという。(写真はイメージです)