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2014年夏に起こった、ある殺人事件のその後【後編】

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「2014年夏に起こった、ある殺人事件のその後 前編」より

17歳の少年はなぜ人を殺したのか

 前回の原稿で、昨年の夏、ある山深い地方都市で起こった殺人について書いた。死体遺棄し(父親を伴い、みずからの殺人を自白した)少年が逮捕されたという痛ましい事件だ。自首したのが17歳の少年だったこと、また痴話喧嘩の延長に起こった事件だったこともあり、全国的には報道は極めて表面的な扱いだった。

 同じ17歳でも、例えば吉祥寺女性刺殺事件の報道と比べてあまりに扱いが違うのは、後者がまったく犯人と無関係の一般女性だったのに対し、この山間の殺人事件の内情が濃密な人間関係で結ばれた、情緒不安定な男女の間で起こった事件だったからだろう。

 誤解されたくないのであえて書くが、年齢が同じ17歳というだけで、筆者もこの2つの事件を同列には捉えても考えてもいない。吉祥寺女性刺殺事件は罪のない女性の身に突如降りかかったあるまじき事件であり、もちろんまったく性質が違うものだ。

 それでも、あえてこの痛ましい事件を引き合いにしたのは、山深い現地を取材し、この事件に付随した様々なことを知るに連れ、比べるべくもない異質な事件ながら、痛ましさや後味の悪さはもう少し報道されてしかるべきことのように思えたからだ。ある意味、これは極めて現代的で、そして日本の暗部を映した事件なのだ。

少年は睡眠薬遊びにふけっていた

 本題に入ろう。
 
 あまり突っ込んだ報道がされないひとつの大きな事情は日本の地方都市は得てしてそういう側面を持っているものだが、向こう三軒両隣、すべて知人、極端な言い方をすれば、すべて誰かしらの親戚という密接さにある。

「そうですね。事件が起こった、殺されてしまった女の子の名前を耳にした瞬間、大げさでなくこの町の8割の人間は犯人がわかりました。ああ、あそこのあの子がやってしまったのかと。それは推量ではなく、全員にとって確信でしたね」

 そう話すのは、加害者少年と同じ学校に通う子どもを親戚に持つこの町の住人だ。

 取材した中には「報道では父親を伴って出頭と言われているが、その前に地元の警察から父親に出頭を求める連絡があったはず」と答えた住民もいた。

 この事件を描くと凝縮された人間関係まで不必要に描き出さなければいけない。

 この殺人事件は、そこまで書く必要がないとメディアに判断されたのだ。大げさにいえば、彼が罪を犯したという以外は、タブーにされたのである。

 また、地元のある アウトローはこう証言する。

「彼はエリミン中毒だった。エリは留置場でも眠る前に処方する類の薬ですが、ぼりぼり齧り出すくらいまでいくと、呂律もまわらなくなる。コントロールできない人間がハマればシャブ中に似た行動をとることもある。10代でハマったらわけわからなくなるでしょうね」

 一部ネットなどでは、彼が薬物にハマっていたとの書き込みもあるようだが、彼のハマったドラッグは現時点でも正真正銘の「合法ドラッグ」だった。

 エリミンは危険ドラッグや覚せい剤とは違い、神経内科で「死にたい」といえば安価で処方してくれるものだ。

 半錠かじってる分には肩の力も抜けて思考も冴えようものだが、とは言え、酒と合わせたり、一度に5錠、10錠飲むようになれば、記憶はシャットアウトされ、日頃抑圧していた欲動に身を任せることになる。

 そして前回の原稿で書いたように、時に少年を切腹をさせ、また年上の被害者女性は痴話喧嘩に刃物を持ち出すようになる。

 では、エリミンの中毒者だからこの事件は痛ましいのか。
 
 それも1つではある。

 若過ぎる男女がドラッグに溺れるのは、どこでも起こりうる話だ。だが、本当に痛ましいのは、この事件の後に連鎖した諸々ことのほうだろう。

耐えられなかった「犯罪者の母親」というレッテル

 前に書いたように、この地区は向こう三軒両隣がすべてが知り合いという凝縮された人間関係にある。

 直後に、少年の祖母は責任を感じ橋から身投げし自殺した。それは、よくある話だろうか。あるいは、よくある話かもしれない。

 この祖母の年齢は、まだ50歳前後だった。そして、少年の母親がまた別の橋から身を投げたのは、それからすぐのことだった。

「祖母が孫の起こしたことに責任を感じたことは間違いない。ただ、母親に関しては元々情緒不安定だった。事件が背中を押してしまったことはあるのでしょうが、また彼女の不安定な精神性が、日頃から少年を追いつめてしまっていたところはあるかもしれない」(この町の住人)

 こうして、少年は恋人だけでなく祖母、母親まで失うことになったのだ。

「うちの町に限ったことではないだろうが、これが東京だったら結末は違ったものになったかもしれない。こういう声は中央には届かないものだが、覚せい剤や危険ドラッグ以外にも目を向けなければならないものがある気がする」

 無力そうにそう呟いた地元の有力者の声には、1年経たずに風化しつつある殺人事件の痛ましさとやり切れなさが滲んでいた。


(取材/文=李白虎)

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街の商店街はすでに事件のことを忘れ去ろうとしているようだった