
その華やかできらびやかな世界は唯一無二(宝塚歌劇公式ホームページhttps://kageki.hankyu.co.jp/)
未婚の女性だけで構成されている世界唯一の演劇集団、それが宝塚歌劇団である。当然、そこに所属する女優やそのファンも、他ではお目にかかることができない個性的な存在であることは言うまでもない。
そのユニークさの一例を、まずは宝塚独自の慣習である「入り待ち」を例にとって説明してみよう。
ファンが声を発しないおかしな"入り待ち"
入り待ちとは、楽屋口に入ろうとするスターと、待ち構えるファンとの、ほんの一瞬の交流イベント(?)のことである。
東京公演であれば、東京宝塚劇場(千代田区有楽町)の楽屋口へ向かうスターに向って日比谷シャンテ側の歩道からファンが「声援のようなもの」を送るのが通例となっている。
「声援のようなもの」 と書いたのには理由があって、実際にはファンの誰も声を発しないからである。それはファンレターを手渡しするときでさえ声を出さない、という徹底ぶりなのだ。
信じられない方は実際の入り待ち動画を見て、自分の目で確かめてほしい。
https://youtu.be/hBYA1aqLyBo
この動画の中で、無言で手紙を渡している女性たちは、そのスターの私設ファンクラブの会員たちである。逆に言えば、会員以外はスターにファンレターを手渡しすることはできない。
そしてもっと言ってしまえば、スターの脇で荷物を持っているのもマネージャーではなくファンクラブの代表なのである(宝塚歌劇団には、どんなスターでも在籍中はマネージャーを付けられない決まりがある)。
このように他で類を見ないような深い絆でタレントとファンが結びついているのだ。
スター退団後のカースト事務所
この強い絆は、スターの宝塚退団後も変わらない。退団したスターの約半数は個人事務所を設立するが、この事務所の社長にはファンクラブの代表が就任することが不文律となっている。
もちろん他の社員もファンクラブの主要メンバーがスライドして、宝塚時代と同様かそれ以上、スターを物心両面から支え続ける。食事の三食差し入れからはじまり、掃除や洗濯もすべて特定の社員が行う。
交代ではない、掃除の社員は永遠に掃除だけ、洗濯のスタッフは明けても暮れても洗濯だけをするのである。しかも何の仕事をするかは自分で選ぶことはできない。すべてはファンクラブ時代の序列で決まってしまうのである。
なかには社員が掃除をしない事務所もあるが、それは社員から集めた金でスターが帝国ホテルなどの高級ホテルに住むため、社員が掃除をする必要がないだけの話なのである。
ドラマや映画、CMに出演する可能性が減ってしまおうとも、大手芸能事務所ではなく個人事務所の設立にスターたちがこだわる理由はここにあるのだ。
強い絆で結ばれたスターとファン
繰り返すようだが、宝塚出身のスターとファン(社員)との絆は非常に強い。第三者から見たら、もしかしたら少し異常に見えてしまうかもしれないほど、それは深くて濃いつながりなのだ。
ちなみに元宝塚男役のトップスターと現場で一緒になったことのある大手芸能事務所のマネージャーは、そのときの驚きをこう語ってくれた。
「(元宝塚男役のトップスターは)誰とは絶対に言えませんけど、もう70歳くらいの方で、4人くらいいた付き人もみんな60歳以上っぽいんですよ。その付き人がスタジオ中を走り回っているから、もう目立つ目立つ。しかもなぜか全員、お揃いのトレーナーとレギンス着て、なぜか足袋に草履を履いてるもんだからパタパタうるさい(笑)。
でも一番驚いたのは収録後、そのスターさんと事務所の社長とチーフの付き人だけがエレベーターに乗って、セカンド以下の付き人は階段で降りなくちゃいけないみたいなんですよ。たまたま階段を登っていた局の人間は腰を抜かしそうになったんじゃないですかね。すごい勢いで階段を駆け下りる、お揃いのトレーナーを来た老婆とすれ違ったわけですから(笑)。
それにしても、何十年も一緒にいる付き人なんだからエレベーターくらい一緒に乗せてやればいいじゃん、とは正直思いましたね。オスカル様もひどいことするなって」
(取材/文=R-ZONE編集部)