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奨学金という名の借金を背負った大学生の物語

いま話題の本を読む リアル過ぎる池袋の裏社会漫画『ハスリンボーイ』

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 今回、私が取り上げたい本は、裏社会の現状を綿密に取材し鋭く描いた『週刊ビッグコミックスピリッツ」』で連載中の『ハスリンボーイ』という漫画だ。原作を担当する草下シンヤ氏は『実録ドラッグレポート』『裏のハローワーク』『半グレ』等の著作がある作家で、アウトロー業界に多彩な人脈を持つ人物として知られている。ハスリンボーイはネット上で「新感覚アウトロー現る」「ただの犯罪者をダークヒーローと称している」等々、賛否両論溢れて話題の激ヤバな作品だ。

■奨学金という名の借金を背負った大学生の物語
 ハスリンボーイの「ハスリン」とはヒップホップの俗語(スラング)が発祥。ハスリンとは、非合法な商売で稼ぐことの意味である。主人公のタモツは、奨学金という名の借金を背負った大学生。
 奨学金制度は日本の社会問題となっていて、多くのメディアで取り上げられている。大学に進学する2人に1人、つまり約半数の人間が奨学金利用者だとされている。奨学金と言えば聞こえは良いが、ようは借金だ。数百万円を返済することはそう簡単なことではない。事実、大学を卒業し社会人になってから滞納、もしくは返せない人が沢山いる。酷いケースでは自己破産にまで追い込まれる者も出ている。
 タモツは、そんな救われない残酷な現実に気が付いた。詰んだ人生を逆転させるため池袋の裏社会に身を置き、非合法(ハスリン)道具を扱う「道具屋」となる。タモツがトバシ携帯、偽造品、他人名義の通帳など裏社会の住人たちに必要不可欠な道具を売る仕事をして金を稼ぎ、社会人になる前に奨学金を完済することを目指す青春ストーリー漫画だ。 

■大学生アウトロー
 ハスリンボーイの内容は、最近のアウトロー業界の時代の流れを敏感に捉えている。近頃、私が何よりも強く感じるのは、タモツのような素人が安易な気持ちで裏社会に関わるようになり、犯罪に手を染めてしまうことが多いことだ。
 なぜならば、それだけ需要があるからだ。昨今のアウトロー業界は、警察の取り締まり強化から大きく体質が変化している。組織犯罪の刑期はとても重くなり、下手に末端の人間が捕まれば組織自体の存続が揺らぎかねない。そこで裏社会の住人たちは小遣いが稼げるぞと甘い言葉をかけ、犯罪をすることの恐さを知らない素人を勧誘する。そうして、違法な物を運ばせ、ドラッグの売買をやらせ、詐欺の「出し子(振り込め詐欺で金を引き出す役割の者)」、「かけ子(振り込め詐欺で相手を騙す役割の者」などをさせる。裏社会の住人たちは素人を使い捨ての「モノ」として活用し、自らは手を汚さずに金を設けることができるのだ。裏社会の住人たちからすれば、軽い気持ちで裏社会に近寄ってくる素人ほど美味しいカモはいないだろう。
 だが、そうした極悪非道な裏社会を、巧みに泳ぐ素人もいる。裏社会の住人たちに飲み込まれず、取り込まれず、犯罪の片棒を担ぎながら金を荒稼ぎする素人の強者だ。驚くことに、その中にはタモツのような大学生も少なくはない。

■タモツの人間らしさ
 当たり前だが、裏社会で大学生のタモツがそう簡単に上手くいくはずがない。裏社会の住人たちから様々な嫌がらせを受け、トラブルに巻き込まれていく。池袋の裏社会には大きく分けてヤクザ、中国マフィア、半グレという3種類の住人たちがいる。言わずもがな、裏社会の住人たちはタモツを利用し喰らおうとしてくる。裏社会の住人たちとタモツのやり取りは、ヒリヒリするような緊張感無しには読めない。
 そして、私が一番印象に残ったのは、タモツのキャラクターに感情移入してしまうところだ。タモツはゴリゴリのアウトローではなく、喧嘩は弱いしモテモテでもない。あくまで奨学金返済を目的に道具屋をしている大学生だ。仕方なく裏社会に身を置いているタモツ。捕まることはできないし、金のために悪さをするタモツの葛藤がビシビシと伝わってくる。
 そうしたタモツの繊細な心理描写が、ハスリンボーイの見所ではないだろうか。

■最後に
 よくあるアウトロー漫画は、強過ぎる主人公、えぐ過ぎる暴力シーン、やり過ぎな犯罪などが描かれていることが多々だ。実際のアウトロー業界を知っていれば、フィクションとしては面白いが、そんなことありえないよと思ってしまう。
 その点、ハスリンボーイはリアル過ぎて生々しい。おそらく原作の草下シンヤ氏は漫画用にアレンジしているだろうが、自身の周りにいる裏社会の住人たちの当事者を取材し、時には危険を承知で情報を仕入れて作品にしているはずだ。読んでいて、ここまでのネタを出していいのかと心配になってしまう。原作協力者の中には、前科者も沢山いて最近でも逮捕者が出ているようだ。危ない橋を渡るのは慣れているだろうが、草下シンヤ氏の身を案じずにはいられない。
 この先、タモツが希望の見えない未来を変えるため、池袋の裏社会の住人たちと渡り合い、道具屋という犯罪をし金を稼ぎ、幾つもの危機を乗り越えていけるのか。無事にタモツは奨学金の完済をやり遂げ、真っ当な社会人になれるのかが気になってしょうがない。
 リアル過ぎる池袋の裏社会漫画『ハスリンボーイ』。アウトロー漫画好きには、必読の一冊である。

山口祐二郎
1985年、群馬県生まれ。「全日本憂国者連合会議」議長、「憂国我道会」会長。作家・活動家として活躍。
山口祐二郎公式ツイッター  https://twitter.com/yamaguchiyujiro