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参加者全員犯罪者の大運動会

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参加者全員犯罪者の大運動会


 ある年の運動会の話だ。
 もちろん、シャバで行われている運動会の話ではない。私と文政が一緒に過ごした塀の中での運動会の話だ。


「おい、沖田、運動会どないや、いけそうか?」


 唯一、私と文政が心を許していた刑務官マリオと私は工場内の食堂でミーティングをおこなっていた。


「モハメドも速いし、ホセもおるし、カルロスも走れますから、いけんとちゃいますかっ」


 モハメド、ホセ、カルロス、とあるが無論、海外での話ではない。ここ大阪刑務所で受刑中の、私と同じ工場に出役している外国人犯罪者のことである。


「ほんなら、アンカーはお前が走んのか?」


 一瞬ではあるが、マリオが不安げな表情を見せたのを私は見逃さなかった。


「当たり前でんがな。ここ日本でっせ。ジャパニーズマフィアのオレが走らな優勝なんかできまっかいな。この4人でやりますわ」


 塀の中でも外でも、運動会の目玉といえば、なんといっても4人で走る800メートルリレーと決まっている。私を含めた多国籍軍で、各工場の犯罪者たちを迎え撃つ計画を私はマリオに伝えた。


「よっしゃ、わかった沖田。ホンマに頼んだぞ。もし優勝できたら、玉ねぎ抜きの特別食出してもらえるよう統括にかけあったるからな」


 私は玉ねぎが大嫌いなのである。
 毎度毎度、所長願せんをつけては、面接にやってくる副看守あたりに、"カレーから玉ねぎを抜くこと"を真剣に訴えているのだが、一向に改善されなかった。それをマリオが、今回は上の偉いさんにじかに掛け合ってくれるというのだ。
 私のボルテージは一気に上がった。


「ホンマっすかっ! ほんなら本気でいきますわ」
 交渉成立。
「で、オヤジ何握ってまんねん。今年はえらい張り切りようやから、風俗でも握ってまんのか?」
 マリオは私の問いに不敵な笑みを浮かべると一言。
「キャバクラや」と言い、担当台へと戻っていった。


 そしてその日の午後、80人の懲役の前で私は告知をおこなった。


「今年の運動会ですけど、今年こそ悲願の優勝を果たし、オヤジの胴上げをなんとしてもおこないたいと思います。ですから、これから運動会の選手に選ばれた人には、運動会までの運動時間は私が考えたメニューに付き合ってもらうことになりますが、ご協力よろしくお願いします」


 ふっふふふふ、マリオの胴上げなんてどうでもよい。憎き玉ねぎを抜いた特別食がかかっているのだ。負けるわけにはいかない。
 そしてもう一人。私の告知を聞いてマリオが深く頷いていた。彼も胴上げなんて本心どうでもよかろう。キャバクラのことしか頭にないはずだ。


「兄弟っ! ワシは走らんど~」


 そう言ったのは、もちろん文政だった。
 申すまでもない。彼は私の構想にもマリオの構想にも入っていない。だが、彼がやる気を出すと出さないでは工場の士気がかわる。後日、文政とは個別に面談し、運動会にでる特別食の弁当を半分譲る事で、応援団長を引き受けてもらった。
 その日から、運動時間にはモハメド、ホセ、カルロスを引き連れ、時間一杯走りに走り込んだ。


 そして、運動会当日。
 メインイベントである最終競技800メートルリレーまで順調な成績で進み、リレーで1位を取れば優勝になるというドラマティックな展開を迎えた──のだけれども、私は他の工場のタスキをかけているアンカーを見て、ひっくりかえりそうになった。
 全員が全員、外人で、そのうちの3人が黒人なのである。
 勝てるわけがなかろう。
 そんなことを考えている間に、スタートを告げるスターターピストルが鳴った。


 一番手を走るモハメドはスタートダッシュに失敗。最後尾からのスタートとなったのだが、一気に日本人の犯罪者たちをごぼう抜きし、3位でホセへとバトンを繋いだ。
 ホセは速い。どこか聞いたことすらない国の出身だったが、2位の日本人を軽く抜き去った。その勢いで一気にトップへと踊り出るかと思われたが、前方を走るメキシカンもトップを譲らず、そのまま2位でカルロスにバトンを託した。
 カルロスはバトンを受け取ると、あっという間に1位の懲役を抜きトップへと出たのだが、その後がいけなかった。ラテン系の血が騒ぐのか投げキッスをしたりスキップをしながら走っているので、自然混戦状態でバトンを受け取ることになってしまったのだ。
 このボケだきゃ!と思いながら、バトンを受け取ると、私は無我夢中でグランドを駆けた。
「いけええええっっっ沖田!!!」
 途中、ハンドマイクから叫ぶマリオの声が耳をかすめ気がしたのだが、もしかしたら「キャバクラへ行かせてくれ~っ!」だったかもしれない。
 で、ゴール。


 結果だけ話そう。
 日本人如きが外人には勝てない。いや勝てっこないことをつくづく思い知らされるハメになってしまった。
 一応、私も走りに自信はあった。だけど、外人には勝てない。外人でメンバーを揃えておいてなんだが、アンカーくらい日本男児の人殺しあたりで来いよ!である。
 リレーが終わった後のあのマリオの私を見た時の冷めた表情。そんなにも、彼はキャバクラへと行きたかったのか。


 その後、私の食事から玉ねぎが抜かれることは、出所まで一切なかったのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう)
元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始める。著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)など。最新作は『死に体』(れんが書房新社)