>  > 新装改訂版『尼崎の一番星たち』外伝!絶讃発売中!ー狂犬と怖れられし男ー
ー裏社会の狂犬ー

新装改訂版『尼崎の一番星たち』外伝!絶讃発売中!ー狂犬と怖れられし男ー

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ー裏社会の狂犬ー


現在、長期服役中を余儀なくされているが、Nの凶暴ぶりは尋常ではない。
 受刑生活においても文政の場合、3日手紙が誰からも届かなければ、「どいつもこいつも中おる思って舐めくさりやがって!」となるのだが、Nの場合は「ぶち殺したらなあかんの」となり、場合によっては、たったそれだけの理由でも刑務官にキバを向けてしまう。


 そんな狂犬Nがシャバにいた時のことだ。
 大阪府の堺市というところには、関西の裏社会の住民なら誰もが知っているマンションが存在していた。
 『通称、Sマンション』


 Sマンションには、一般市民はまず入居しないと言われおり、どの号室の入居者もまず裏社会の人間と考えてよい。
 ヤクザの連絡所もあれば、武器庫と呼ばれる部屋もあり、キップ(指名手配)が回っている者の潜伏先としても利用されている。
 簡単にいえば、裏社会のしかるべき人間の紹介があれば、即入居できてしまうのだ。
 そういったマンションには、必ずシナモノの商いをしている店主も多く入居しており、覚せい剤のパケ分けなどや売買を24時間体制でおこなっている。
 そこに品質のすこぶる悪い商品、通称「ばくだん」をつかますことで、業界から大不評をかっていた薬局があった。


 なぜそうなったか文政自身も知らないという。
 ただ、Nが怒り狂いながら特殊警棒4本を握りしめて飛び出していった、と連絡を受けて、文政たちがSマンションの一室に駆けつけた時には、すでに室内にはおびただしい血が飛び散っており、その血の海の中でNが荒れ狂っていたらしい。


「アイゴ~、だから来るの嫌やってんてん。おい、N、もうやめとかんかえ! 死んでまうど!」


 ストリートファイターKが、血だらけでぐったりと横たわる店主 (覚せい剤の売人の元締め)に、ぐにゃぐにゃに曲がった特殊警棒を浴びせ続けている狂犬Nを怒鳴りつけた。


「なんや~、ええとこ付きやないかい。何しにきたんじゃ。このシャブ屋やったら、もう廃業したど~! ワレも血だらけで横なりたなかったら、よそ行け、損得勘定!」


 文政より先にその部屋にたどり着いたストリートファイターKに、狂犬Nが吐き捨てた。


「アイゴ〜っ!しゃあからオドレは嫌いやねん。
ブチ殺すど!」
と言った瞬間にNの細身な身体は、俊敏にストリートファイターKに踊りかかったかと思うと、特殊警棒を振り下ろすしていた。
 バックステップでその警棒を交わしたKは、ためらうことなく、右ストレートをNの顔面めがけて振り下ろす。
 それを今度はNが素早くかわし、左の腰のベルトに挟んでいたサバイバルナイフを抜いたところで、


「やめとかい! ハナクソ!」


 文政の登場となった。


 狂犬Nの吊り上がった目尻が下がった。
「お~う! まさ来てくれたんかい。愛しとんど~」
「アイゴ~。誰がハナクソじゃい!お前が行けいうたん違うんかえ!」


 ストリートファイターKは、文政から電話があり、渋々Sマンションに来たのである。
 3人は同じ中学出身の同級生だった。


「やかましいわいっ! どうでもええんじゃい! お前らのせいでバクチ負けてもうたやろがい!」
それはいつものことである。
 そういった後、血だらけで横たわる店主の隣りで、同じくむくろと化しかけた丸坊主に目を向けると表情を変えた。


「こいつ、堺のタンポンやんけ」
と言いながら、思いっきり蹴りあげたあと、「こんな辛気臭とこおったら運気がさがる。帰んど」と言って背を向けて室内を後にしたのだった。


「きゃっあはははははは! 最高やのまさ~」


 血塗れの警棒をNは放り投げ、抜いたナイフを腰に戻した。


「辛気臭てお前が行けゆうたんとちがうんかえ」
と言いながら、構えていた拳をおろし、Kも文政の後に続いたのだった。


「ケンカでゆうたら、NよりKのほうが断然強い。でも殺し合いになったらNのほうが上や」


 文政がこの話を私にした時、2人のことを彼はこう話していた。


 そのNの社会復帰が近づいている。いくら長期に渡った受刑生活だったとはいえ、刑務官の矯正くらいでは、狂犬Nの気性は変えれないだろう。


「マサくんもいてへんし、何もおこらんかったらええのやけどな」
と、まっちゃんは車上荒らしをしながら、最近、しょっちゅうそんな心配をしているらしい。


 たまには、自分の将来の心配も必要ではないかと思うのだが......。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)