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チャリンコは舐めれる…

沖田臥竜の日常エッセイ!『茜いろの日々』第14話

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チャリンコは舐めれる...

先日のことである。書籍も山場に差し掛かり、その日一日私は原稿と対峙し、切った張ったを余儀なくさせられていた。
そこに千葉にいる後輩から電話が鳴った。

「兄さん、今大丈夫ですか?」

まあまあ大丈夫ではなかったけれど、話しているうちについいつ会話に夢中になってしまい、長電話になりかけた。
そこにまた電話。会話を中断させディスプレイに表示された名前に目を落とした。
「はて...?」
と一瞬、誰だか直ぐには気づかないほど、滅多にかかってこない人からであった。
後輩の電話を「ちょっとすまん!」と慌てて電話を切ると、切れた電話の相手に折り返しを入れた。

「あっ〜ごめんっごめん。間違えてん〜」
上機嫌の間違い電話。したたかに酔っておられるようであった。
「あっ、そうですか!分かりました。失礼します」
と電話を切り、再び原稿に筆を入れていると、また電話が鳴った。
先ほどの間違い電話の人である。

「今、何してんの〜?」

先ほどと変わらずの上機嫌。
「原稿に筆を入れてるところですー」
「あっそうなん。銀行いてんの。みんなで今、ご飯食べてるから来る?」
銀行ではなく、原稿である。
「えっ...あぁ......」
曖昧に応えていると、「ほんなら、待ってるわな〜」と電話を切られてしまった。

遅れるとダメな人である。急いで出かける用意をすると慌てて家を飛び出した。
誰かに送ってもらおうかと考えたが、こんな時に限って誰も電話に出ない。タクシーで行きたかったけれど、タクシーで行けば「何できたん?えっ?タクシー?なんでそんな贅沢すんの!」と叱責を受けそうなので、私は意を決して片道30分はかかる道のりをママチャリで向かうことにしたのであった。

長い間、私は自転車というものをまともに漕いだことがない。それも長時間ともなれば、思い出すのも困難なくらい以前となってしまう。
それでもとにかく急いだ。そういう時に限って、足の脛をぶつけるかのように、邪魔者が現れるのである。
最初に私の行く手を塞いだのは、ちょい悪オヤジとバカ息子そうな御一行である。
歩道の真ん中で陣取り、道を塞いでいるではないか。クラクション代わりにベルを鳴らそうと思ったが、そこで気がつく。ベルがついていないことに。
仕方なし軽快に御一行を交わして、颯爽のごとく駆け抜けて見せようとすると、ちょい悪オヤジと目が合ってしまった。
ちょい悪オヤジは、一丁前にあたかもここはワシの縄張りだと言わんばかりに私を睨んでいるではないか。メンチというやつを切っているのである。
睨まれて、ギュッとブレーキをかけるほど私とて子供ではない。

ーホンマの悪というもんがどんなもんかいっぺん教えてもらうか!文政のブラザーに!ー

と心の中で毒吐くと、今度は小学3年生くらいの子供たちが前方を塞いでいるのである。
だがその頃には、私のチャリンコテクニックも随分と上達しており、軽く少年たちをいなし先を急いだ...つもりであった。
つもりであったのだが、何が癇に障ったのか。気配を感じハッと振り返ると、チビすけどもが私を追いかけてきとるではないか⁈
その光景は、まさに哀れ追われ身となってしまっていたのではなかろうか。

それをたまたま見かけたCBXに乗った2人組が声をかけてきた。
もしかしたら、小学生に追われている私の助太刀にきてくれたのではないだろうか。
「先輩〜なにしてますの〜」
助太刀にしては、随分と呑気な奴らである。
「やかましわ!こっちが聞きたいわっ!」


「えらい汗だくやん。どうしたん〜」
その後、悪戦苦闘の末、無事にたどり着くと開口一番こう声をかけられた。
「自転車で急いでやってきまして...」
「ハッハハハ、ゆっくり来たら良かったのに〜。いっぱい食べや〜」

帰り道。中学生以来となるローリングを自転車できっていると、道に迷いGoogleナビの偉大さを身にしみて感じさせられたのであった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)