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■第4章無間

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第43話

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■第4章無間

背もたれにダラリともたれかかり、うなだれながら口を開いた。
「チャカちゃんとねえのえみちゃんのことだけは、お前がちゃんとしたれよ」
「わかってまっ」
ロキは静かに返事を返した。
 オレが何か言えるとすれば、それくらいだった。
 オレにとっては、こんなにも悲しくて、こんなにも苦しいのに、龍ちゃんの死は、新聞のベタ記事にすらならなかった。
 ヤクザ一人の死なんて、そんなものなのだろうか。
 いったい何人、オレのまわりの人間が死んでいけば、気がすむのだ。一番死ななくてはいけないオレがこうして生きているというのに。
「兄貴、また寄らせてもらいますんで、大事にやって下さい」
そう言って立ち上がると、ロキはシャバに向かって踵を返した。
「ロキッ!」
オレはその背中を呼び止めた。振り返ったロキの視線とオレの視線がぶつかり合った。
 オレは何を言おうとしているのだろうか。もしかして、カタギになれ、とでも言おうとしているのだろうか。
 オレを見つめ返すロキの瞳は、獲物を狙う狩人の眼だった。ヤクザの眼だった。
 オレと龍ちゃんに追いまくられて、危うく買ったばかりのゲームソフトを取られかけた泣き虫ロキは、もうそこにはいなかった。
 オレと龍ちゃんもこういう眼をしていた時代があったのだろうか。最後となった面会で龍ちゃんと向き合った時、龍ちゃんは父親の優しい穏やかな目をしていた。オレは死んだ魚のような目になっていたと思う。
「いや、なんでもない。ほんじゃあのうロキ」
ー死ぬなよロキ、殺すなよロキ、、、ー
 口に出そうとした言葉は結局、言葉にはせず、心の中で噛み砕いた。

ー杏くんムリやって。ここヤクザの事務所やんかっ。僕、今から古屋たちと梅田にフィギュア買いに行かなあかんねんから、明日の昼までここおれっなんて絶対ムリやし嫌やって!ー
ーええからおったらええねんっ。お前のオカンにも頼まれてんねん。家でゲームばっかりして気持ち悪いから外へ連れ出してくれってなっー
ーうそやっ! お母さんにいつも、杏くんには死んでも関わるなって言われてるもんっー
ーなにっ!? あのばばあ、そんなん言うとんかいっ!それやったら余計に親に未練ないやろっ、なんせオレは時間ないから、しっかりやっとけよっ! んじゃなっ!ー
ーちょっちょっちょっちょ、、、、ー
 これが、オレがロキをこの世界に引き入れた最初だった。無理矢理、当番の代わりをさせていくうちに、いつしかロキは、自分自身のことを僕ではなく「オレ」と言うようになり、それがいつしか「ワシ」に変わっていった。
「杏くんっ!」と言う呼び方も、気が付けば「兄貴」になっていた。
 ヤクザの出だしなんて、こんなもんだ。誰かに惚れてヤクザになりました、なんて口で言うほど多くはない。先輩、後輩関係のしがらみから、仕事を手伝わされているうちにとか、段々とカタにハメられていくものだ。オレも龍ちゃんも似たり寄ったりだった。
ー 兄弟。いつの間にか、あのオタクのハナタレが、ええヤクザのツラ構えなりよったな。
 あんな泣き虫のビビリに何ができんねんて思てたけど、今日な、兄弟の死を何一つ顔色変えんと最期まで語り切りよったで。
 あいつも死ぬほど哀しいくせに、涙見せんと語り切りよったで。
 それでこそヤクザやわな。ちゃうか、兄弟。 ロキはええ極道なりよったよ。
 兄弟、どうやそっちは?懲役より楽か?なあ兄弟、、、死ぬゆうのんは、どんな気分なんや?オレの声はちゃんと聞こえてんの?
 オレはまだ首括られんとしぶとく生きてるけど、情けない話、3人も殺めといて、今でも死ぬのが、殺されんのが怖いやて。
 笑うやろ? 笑ろたってくれや。何やってんねん兄弟って、いつもの声で笑ってくれや、、、なんで兄弟、先逝くねん。オレに精神鑑定してでも、アホなフリしてでも生きなあかん言うてたクセに、なんでオレのことおいて先逝ってもうたねん。死ぬ時は一緒とちゃうんか、、、なんで、、、なんで兄弟が死ななあかんねん、、、なんでやねん龍ちゃん。なんでやねん龍ちゃんっ、、、、、ー
面会室から舎房までの帰り道、渡り廊下から目に入った景色の中には、真っ白な雪が彷徨うに舞っていた。
「ホワイトクリスマスやな」
オレを連行していた年輩の看守部長が、しみじみと呟いた。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)