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白いブッチャー

新装改訂版『尼崎の一番星たち』外伝!絶讃発売中!ー尼崎極道炎上篇ー

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白いブッチャー

「兄弟には、ブッチャーとメンチがいとるからええがな~」


 文政ですらこう言うほど、当時私が抱えていた部下の中でも、この2人はある意味、異彩を放っていた。
 難点があるとしたら、両者とも会話が一方的過ぎる傾向があり、相手の話をまったく聞かないところであるが、それを除けば、実に頼もしい男たちだった。


 喧嘩は2人とも無敵を誇っていたし、私がロックオンのサインを出せば、相手が誰であろうと踊りかかっていった。
 見境いがなくなってしまうと、駆けつけたお巡りさんにまでヘッドロックやラリアットをかましてしまう癖(へき)もなくはないが、荒事に対しては、滅法強い。かなり私もアテにはしていた。
 これで、普通にコミニケーションをはかることができれば言うことなしなのだが、いつだって天は二物を与えてはくれない。


 ホワイトブッチャー。略してブッチャーは、呼び名の通り、見た目がプロレスラーのブッチャーまんまの男で、地獄突きこそしないが、金に困ると手当たり次第、恐喝という場外乱闘をすぐ起こしまう。


「兄貴、今ええシノギやってまんねん!」


 呪いのカン太事件の余韻がまだ冷めやらぬ頃、本部事務所に入ってきたブッチャーが、私を見つけるなり、鼻息荒くこんなことを言い出した。
 ブッチャーがウキウキしながら報告してくる時にろくなことがないのはわかっていたので、無視を決めこんで新聞に目を落としていると、私の受け答えなど意にも貸さず、ブッチャーはツバを飛ばしながらまくし立てた。


「恐喝でんねんけどね。信号待ちで止まってる車ありますやろ。そこに近づいていってでんな。青なって動きだした瞬間に、足をパッと出して踏ませまんねん」
「それ、痛ないんか?」
 率直な感想だった。
「全然、痛ぁありまへん。それで運転手引きづり出してでんな。オドレコラ! どないしてくれんねん! 痛いやないかっ!ってやりまんねんけどね」
ため息まじり私は漏らした。
「そんなもんすぐ捕まるがな」
「と思いますやろ。それがちゃいまんねん。これをわざとヒネ場 (警察署)の前でやりまんねん。相手もまさかいきなりヒネ場の真ん前でそんなことするなんて考えまへんから、そこをついた心理作戦なんでっけどね」
 どのあたりが心理作戦なのか、私にはさっぱり理解できなかった。
「おいっ、警察突き出して、人身扱いにしたろうかいっ、ゆうたら、すぐに1万2万の金やったら出しまっせっ」
 当たり屋やん。ええシノギっていうか当たり屋やん。それで、1万2万というのである。
 言葉を失った私に対して、ブッチャーはまだ止まらない。
「こういうシノギ、失礼でっけど兄貴、苦手でっしゃろ?」
 苦手か得意かの選択肢しかないのであれば、確かに苦手である。というか、得意な人間がいるのだろうか。
「だから、これを兄貴が考えたゆうて、文政の兄さんに教えてやんなはれ!」
 教えてどうする。普通ならば、「誰が当たり屋なぞやるかい!」と言うところであるが、私はその言葉を飲み込んだ。文政なら誰かにやらせかねない。それも、おそらくは罰ゲームとして......。


 次第に、話の雲行きが怪しくなりはじめてきたので、私は脳裏からブッチャーの声を一切遮断し、再び新聞に目を落としたのだった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)