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2度とシャバの土を踏むことができぬ者

新装改訂版『尼崎の一番星たち』外伝!絶讃発売中!ー尼崎極道炎上篇ー

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2度とシャバの土を踏むことができぬ者

《文ちゃん!今日はええプレゼントがあるで~》
から始まる手紙の主はA。
 Aからの「文政」へのプレゼントとは、


《文ちゃんは、ええ男や! 大阪一や! ワシも大阪一やと思うとる。大阪で一番同士、兄弟なる時が来たんとちゃうかっ!》


 要するに獄中のAから「文政」に、兄弟分のお申し込みである。


 私はこのAという男のことを直接知らない。
だが、A達が起こした事件は、紙面で読んでいたし、「文政」からも聞いていた。
 私とは違った意味で別世界の住人だ。


 文政は言う。
「Aはな、元は神戸の四次団体の若い衆やってんけど、ヤクザとしては一切使いもんならん。どっちかゆうたら、カタにはまらんワシら側の人間や。
 多分、兄弟とはまったく肌が合わんやろ。
 ワシら側の人間やけれど、ワシら側からもはみ出してもうとる。生粋の悪党や」


 生粋の悪党や──そう言った時の「文政」の顔はどこか苦々しげに見えた。


「こいつらの事件で一人行方不明になっとるやろ。死体はロシアに流されたらしい。
 名前はNゆうねんけど、コイツもワシよう知っとんねん。
 Nがしゃくられた(さらわれた)時、Nの車の助手席にワシの妹分が乗っとってな、一部始終目撃しとるし、Nをしゃくった部隊の人間らもワシ付き合いがあんねん」


 実際「文政」の顔の広さは、日本全国に広がっている。


「NはMゆう人間にはめられたんや。
 元は、AとNとMの3人を中心にして、なんでもござれのギャング組織を形成しとってんけどな、◯◯県に三人で遠征のタタキ(強盗)入ったゲーム屋が悪かった。兄弟も知っとるやろ、◯◯組」


 私だけでなく、ヤクザをやっていれば、誰だって知っている武闘派組織だった。


「あそこの組長の姐がやっとる店やってやな、たまたま店に居合わせた姐まで縛ってもうたんや。
 そりゃ早かったで。3日もせんうちに3人とも名前割れてもうて、西成はすぐに◯◯県ナンバーで埋め尽くされてしもうた」


 この3人が大阪西成区を拠点にギャングへと繰り出していたことは、私も新聞で読んでいた。


「最初に捕まったんがMや。Mは殺されてない、半殺しですんどる。向こうの狙いは、AとNやったからな」
 一連の事件は、全てAとNの主導であったらしい。


「Mを手引きに使うて、AとNを呼び出しかけたんや。Aは来なんだ。来とったらNと一緒に行方不明なっとたやろ。Nはまんまと行ってまいよった。一緒におったワシの妹分まで連れて行ってまいよった。
 もちろん、ワシの預かり知らん話や。NはMの指示した場所に着くなり、待ち構えとった部隊に四方八方を囲まれた。一緒におった妹分が見とるから、間違いないやろ」


 その時の状況を「文政」はすべて、妹分から詳しく聞いていた。


「NはNでAほどやないけど、気は狂うとる。青龍刀握って、運転席から飛び降り踊りかかっていこうとしたらしい。しゃあけど、一瞬やったって。"熊殺し"いうタンクついた催涙スプレーあるやろ。アレをさっと浴びせられ、トランクの中へ突っ込まれて還らぬ人や。死体もあがってへん」


 "熊殺し"と呼ばれる催涙スプレーは、人をさらう時に重宝されており、裏社会のアウトロー達の必需品だった。


「この一件ではワシの知り合いを始め、16人パクられたけど、証拠不十分でみな起訴されとらん」


 紙面で大きく取り上げられた逮捕の記事に対し、この釈放の記事の扱いはあまりにも小さいものだった。いつもの事と言えば、いつもの事だが。


「Mは逃げだして、すぐにヒネ(警察署)に駆け込んで塀の中へ逃げ込んだ。
 Aは『Mを殺す』て騒いどったらしいけど、もうすでにオリの中や。手出しようあらへん。
 結局、Aだけ逃亡生活や。その逃亡生活中に普通の女の子を喫茶店からしゃくりよってな、その女の子をシャブ漬けにしよってんから、もう無茶苦茶やがな。
 それでパチンコ打ってる時に、その女の子に通報されて、チャンチャンや」


「文政」の口調が、いつしか毒でも吐き出すような喋り方に変わっていた。


「シャブでパクられたあともな、Aは『こうなったら全員、道連れにしたらあ』とかなんとかゆうてな、事件なってない事も全部歌いよった。
 それで関係ない子らまで巻き込まれて、Aのチンコロで最終的に14人もパクられてしもうとる。
 Nの件も合わせたら、Aの絡みで30人パクられた事になる」


 逮捕者30人といえば、小規模な抗争事件の逮捕者に匹敵する数字であろう。


「ワシが『仁義』やの『ルール』やのゆうたら、兄弟に笑われてまうかもしらんけど、ワシらには、ワシらの仁義があるはずや。それすら守れんAはクソや」


 確かにAは、クソである。中でAを仕留めようとする動きもあるほどだ。


「コイツとな、バクチ場でよう顔合わせとってん。
 ほんならワシに、『文ちゃん、チマチマやらんと、ワシらとギャング行こや。居とるだけでええから』とか抜かしよってな、ド突き上げたろか思たけど、今思えばかかわらんでホンマ良かったわ」
 この話は、もちろん実話である。


 ヤクザ記事をなりわいにしているジャーナリストもこの事件を実話誌に書いている。少し事実とは異なる箇所も見受けられたが、事件が事件だっただけに、わざと筆をぼかしたのかもしれない。


 その後、Aは、東大阪の会社社長宅に侵入し、一家6人を縛りあげて包丁で切りつけた挙句、現金を奪った事件をはじめ、30件以上の罪状で逮捕起訴され、無期懲役の判決を受けて某刑務所に収容されることになる。


もちろん、その時の私達が、そんな先の事など知る由もない。だが、どこか暗い予感は文政にも私にもあったように思う。


「でも、兄弟、やっぱしバクチはタブやで」


 そう言って、何事もなかったように「文政」は、熱心にバクチの話を語り始めたのだった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)