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第4章無間

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第39話

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■第4章無間


「来年のクリスマスにも、一緒に観に来てる確率はっ?」
 巨大なツリーをバックに尋ねるゆまの表情は、キラキラと輝いていた。
 ゆまとシャバで過ごした最初で最後のクリスマスイヴの日。未来のことなどなにもわからないオレとゆまは、繁華街の中心にそびえ立つツリーやイルミネーションを見上げていた。
 周囲を見渡せば、ツリーを囲むように屋台が並び、同じようにイルミネーションを見に来ているカップルや、家族連れの子供たちで溢れかえっていた。その中で、ゆまはずっとはしゃいでいた。
 いつも見せてくれている表情や声に、甘える仕草が重なっていた。そんなゆまが嬉しくて、オレの心は温かく満たされていた。
「99%やなっ」
「うわっ、杏ちゃん、えらい自信やんっ!。それで、1%の来られへん理由は? まさか、杏ちゃん、別れてるかもしれんっとかゆうんと違うやろねっ」
「ちゃうがなっ、パクられてるかもしれんし、くたばってるかもしれんからなっ」
「えっ!?また、杏ちゃんそんなことすんのっ!?」
 哀しそうな顔をするゆま。愛しくて仕方なかった。
 はたから見れば、何言ってんだかこの2人は、となるところだが、演じてるオレの心の中では、ばりばりのラブソングがエンドレスで流れていた。
 さぶいっさぶいっと言いながら、ゆまはオレのダウンジャケットの右ポケットに左手をずっと突っ込んでいた。

不幸にして、この時のオレの予想。1パーセントの確率をオレは見事に引き当ててしまったのだけれど。
 オレは苦しくなると、このシーンを思い出す。
 もっと楽しい日もあったはずなのだけど、イヴという特別な夜だったせいか、いつもこの記憶がよみがえった。
 この記憶がある限り、オレはゆまのことを忘れることができないだろう。同時に、この記憶があったおかげで、大抵のことは乗り越えてこられた。もしも過去に戻り、今の気持ちであの頃に戻ることができたならば、オレはもっとゆまのことを大切にできただろうか。
 たかだか1週間手紙が来ないだけで、すっかり見放されてしまった気分になり、思い出ばかりをさ迷っていた。
 待望の手紙は、それから3日後の夕刻に届いた。
 無愛想で、わずかなやりとりすらウンザリさせられてしまう、いけ好かない担当から受け取った。
 それが原因ではなかろうが、あれだけ待ちわびびていたゆまからの手紙だったのに、なぜか何度読み返してもしっくりこなかった。
 別れが綴られている、というのではない。だけど、なにかが引っかかって仕方がない。いつもの文面から伝わる温かみが感じられないのだ。
 手紙が来なければ来ないで不安になり、届いたら届いたで、ささくれだっている自分がいた。
「指印が薄いから、もう1回押してくれ」
 外でも中でもそうだ。いけ好かない奴というのは、決まっていけ好かないことを言い出す。手紙を受け取った時の受領の拇印が薄いので、「もう一度押し直せ」と言うのである。
 オレは無性に腹が立った。
 いけ好かない奴というのは、大勢の人間からも、かなりの確率でいけ好かない奴と思われている。横山のやっさんの情報なので、ことの真相は限りなく胡散臭いが、やっさんの話しではこの担当。わずかな手当てを得るために、どの刑務官も尻込みし、敬遠し、逃げたがる死刑執行の立会いを、進んで志願しているというのだ。多分やっさんのホラだろうが、こいつなら大いにありそうだ、と思えるところがあるので誰も否定しなかった。
 オレは、指印をムギギギューッと強く押し付けながら、ーあんまり感違いしとったら黙ってへんぞっ!、、、鬼ガワラがなっ!ーと、心の中で吐き捨てた。
ドロドロと、どす暗い闇が、死刑囚たちを今日も呑み込んでいき、眠れぬ夜を演出していく。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)