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第4章 無間

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第31話

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■ 第4章 無間

(二)

─拝啓

どれだけ、あんたは迷惑をかければ気が済むのでしょうか。
10年もの間、刑務所で何を反省してきたのでしょうか。
やれ金を送れだの、やれ本を入れてくれだのと、あんたは言ってきましたね。
これが、本当に最後と思い、甘やかしたのがいけなかったのでしょう。
私は中学校を出てすぐに働きにでました。
給料は全部、ばあちゃんとじいちゃんに渡しました。
物凄く貧乏した分、苦労した分、あんただけには不敏な思いをさせてはいけないと思い、なんでも買い与えてしまったこともいけなかったのでしょうね。
働いて働いて、あんたを立派にしようと一生懸命働いてきました。
そんな私を、あんたはどれだけ苦しめれば気が済むのですか。
あんたのおかげで、老後の楽しみもすべてなくなりました。
うれしいでしょう。
人にばっかりいい格好をして、たった一人の身内を苦しめた罰です。
死んで償いなさい。
死になさい。
どれだけこんなことを書くのがどれだけ辛いことか。
あんたにはわかりますか、、、。わからないでしょう。
あんたのおかげで何もかもなくなりました。


あんたを恨んでいます。
あんたなんか産むんじゃなかったと、毎日後悔しています。
もう、あんたの母親はやめました。
あんたのお母さんは死にました。
二度と手紙も書いてこないでください。
本当に迷惑です。
私に少しでも悪い、申し訳ないという気があれば、そっとしておいて下さい。
鬼の子のあんたには、そんな気持ちなどないでしょうが、、、。

朝晩、必ず手を合わせて、「ナンミョウホウレンゲキョウ」と唱えなさい。
ばあじゃんとじいちゃんが毎日やっていたでしょう。
手を合わせて、ナンミョウホウレンゲキョウ、ナンミョウホウレンゲキョウとお題目を唱えなさい。
楽になれます。
寒い日が続きます。
身体に気を付けて、あんたも男だったら頑張ってみせなさい。
無理ばっかり行って、ゆまちゃんだけは、困らしなさんなよ。


   昔、あんたの母だったおばさんよりー

「そりゃもうヘコみ倒すようなこと書いてあったわ。鬼の子とかなっ、、、」
「仕方ないやんっ。でもホンマは、心配で心配で仕方ないねんで。だってこの前、お母さんがゆきち連れて遊びにおいで、って言うてくれてな、姫路行ってきてんけど、お母さん杏ちゃんの小さい頃の写真見せてくれながら、ずっと杏ちゃんのこと気にしとったもん」
 昼下がりの面会室。昨日、母から届いた手紙の内容を、落ち込みながらゆまに話していた。
 話題を変えるように、ゆまは、「そうそう、その時にな、お母さんがゆきちに、バンバンバン買うてくれて、今ずっと、それで遊んでるわ。くみちょうがおったら、本物のピストルで遊べたのにな~、やって」
「アッハハハ、なんでやねん」
 月にたった2回、時間にしてわずか10分の面会時間は、オレにとって何よりの楽しみだった。
 何気ない会話のやりとりの中に、オレは幸せを感じていた。この手を伸ばせば届く距離なのに、2人の間を遮る鉄壁。アクリル板が、2人の距離を永遠にさせてしまっている。
 もう目の前のゆまの手を握ることも、肌に触れることもオレにはできない。
多分オレは、このまま処刑台に上げられ、刑を執行し終えるその瞬間まで、自分の愚かな人生を後悔しながら、死んでいくのだろう。
 ゆまが微笑めば微笑むだけ、胸が痛んだ。
 それでもまだ、オレの瞳の中には、ゆまがいた。手を握れなくとも、彼女の体温を感じられなくても、オレの瞳の中には、確かにまだゆまが映っていた。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)