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第3章 邂逅 第25話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第25話

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第3章 邂逅 第25話


 たった、一度の出来事でオレの自信と余裕はいとも簡単に揺らぎ、いてもたってもいられないほどうろたえた。
 その日はゆきちの誕生日だったので、ゆまはゆきちを連れて、実家へ帰ると言った。
 もしこの時、オレが少しでも寝過ごしていれば、せめてもう一本、家でタバコでも吸っていれば、その後に続く運命は大きく変わっていたのかもしれない。
 オレは実家に帰ったはずの2人が、家からさほど離れていない駅の近くで、別れた男と笑いながら歩いているのを、たまたま目撃してしまった。
 この「たまたま」が、後へ続く悲劇の引き金となってしまった。


 オレはもしそういった現場を目撃してしまったら、理由いかんに問わずブチ切れてしまい、男も女も、そのへんの通行人にいたるまですべて皆殺しにしてしまうんじゃないかと思っていた。そんな自分自身の凶暴性を、いつしか危ぶむようにさえなっていた。
 それがどうだ。実際そういう現場に遭遇すると、とっさにオレは車の影へと隠れてしまっていた。
 惨め。そんな生やさしいもんじゃない。
 言えばよかったんだ、どういうコトなんだ!と。それすら聞くコトが出来なかった。
 オレは次第に彼女、ゆまとの暮らしの中で、優しさなんてものをすっかりなくしてしまい、荒れていった。
 そんなオレに、ある時ゆまはこう言った。
「ゆま、なんかしたっ?」
不安そうな顔でそう言った。
 オレはしらばっくれやがって、と思いながらも、口には出さず、ますます荒れていった。
 理由も説明せずに、生まれて初めて女に手をあげた。
 手をあげてしまった自分自身に自己嫌悪を覚え、そのやるせなさにまた荒れた。やり場のない苛立ちは、一気にオレの中で加速していった。


 今ならわかる、ゆまの気持ちが。
 ゆきちはオレにとって宝物だ。何より愛している。
 だけど、本当の父親か、と言われれば、やはり本当の父親ではない。
 ゆまと前の男が別れたと言っても、ゆきちにとっては、いつまでたっても、お父さんはお父さんだ。
 女として別れた男と会っていれば、それは裏切り行為だろう。だけど、その男との間にできた子供の誕生日に、子供のために会うのは、仕方ないことではないだろうか。
 子供がいる女性と一緒になるということは、そういうコトもすべて受け入れることではないだろうか。
 今ならわかる。しかしこの時のオレの狭すぎる狭量では、受け入れてやることも、気付かぬフリを演じてやるコトも出来なかった。
 ノッてる時は、多少、強引に物事を進めても上手くいくというのに、一度つまづいてしまうと、そうしたツケが回ってきたかのように災いを独り占めしてしまうクセがオレにはある。
 タイミングよく、かけていたシノギがずっこけた。
 いつものコトだ。こうなるとオレは、踏ん張りきれない。すぐに投げ出してしまう。
 それで、シャブに手を出した、なんて、なんの理由にもなりはしない。自分自身に呆れ返り、笑うことすら忘れてしまいそうだ。オレは10年もの間、刑務所で何を学んできたのだろうか。また、同じようなことを繰り返した。
 あとは、堕ちるべくして堕ちて行き、それだけでは飽き足らず、はた迷惑にもトチ狂った。
 シャブボケがよく口にする、「盗聴されてる」だの、「張られている」だの、「みんなグルになって、オレのコトをバカにしている」だの、自分でも理解できない領域に達していった。
 猜疑心におかされたオレは、ゆまの行動を監視し続け、カスのように携帯をチェックして、猜疑心を募らせまくった。
 やっているコトが最悪だと分かっているのに、やめられない自分。
 自己嫌悪、シャブ。自己嫌悪、シャブ。自己嫌悪、シャブ。エンドレスに続く終わりなき破滅。
凶行は、白昼に見ず知らずの通行人、2人に向けられた。
 そして、どうしようもなくなったゆまが警察へと通報し、オレは社会での生活にピリオドを打った。
 これで控訴など、生きたいなどと、言うことが許されるだろうか。


 許されることはないだろう、、、。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)