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第3章 邂逅 第24話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第24話

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第3章 邂逅 第24話


 ゆまがどうしてもオレに控訴させるために、オレを死なせないために、大阪刑務所に務める龍ちゃんのところに面会へと行き、オレを説得してくれるよう頼んだのだろう。
兄貴の面会が入った翌日。龍ちゃんから速達で手紙が届いた。
 痛いくらい龍ちゃんの気持ちが嬉しかった。言葉は乱暴だけど、気持ちが温かかった。龍ちゃんの想いが心に沁みた。
 龍ちゃんの言う通り、オレはシャブで狂っていた。トチ狂っていた。
 酒やタバコに合わないという体質があるように、シャブにもそれがある。合う奴はパクられるコトなく、図太くも楽しみながら綺麗に遊び、合わない奴は骨の髄までシャブられる。どっぷりと、朽ち果てるまで溺れてしまう。それでも、また射(ぶ)つ。射ち続ける。1週間もあれば、自分が正常なのか、他人が異常なのかさえの判断すらつかなくなり、猜疑心と疑心暗鬼の虜になってしまう。
 そして、重度の睡眠不足が幻覚を、幻覚が幻聴を呼んでくる。
本能が呼ぶ。
殺らなければ殺られると。
殺らなければ殺られると。
 24時間、四六時中、完全に壊れるまで叫び続ける。
 それがオレだった。
シャブを射って、気持ちよかったとか、スッキリしたとかいう記憶は一度もなかった。射てば射つほど、無間地獄に堕ちていくのが、手にとらなくともよくわかった。
 だったら、なぜ射つのだ。
 それが麻薬だからだ。
 それがシャブの恐ろしさだった。一発射てば、本人の気持ちよさなど関係なく、やめられない。
 おかげで、手に入れたはずの幸せをいともたやすく狂わし、二度と戻るコトの出来ない破滅のレールを、脱線するコトなくひた走り続けた。
愚かだった。死ぬほど、愚かだった。
 バカは死ななきゃ治らないというが、このバカは死んだくらいでは治らないだろう。
 オレはいつもそうだった。いいことが続くと、いつもその中で怯えていた。いつも手に入れた、ささやかな幸せの中で、怯えていた。いつかこの幸せが崩れてしまうんじゃないかと怯え続けていた。
 幸せになればなるだけ怖くなっていく、なんてバカな話だ。笑ってしまうけれど、慣れていない幸せに、小心者のオレは、びびっていたのかもしれない。すくみ上がっていたかもしれない。
 怖くて、怖くて、手に入れた小さな幸せが、どこかに行ってしまいそうで怖くなったオレは、その小さな幸せを自らの手で崩壊させていた。


 笑えよ。
 救えないって笑えよ。


 きっかけは、ゆまを信じられなくなったことだった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』