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歩く情報機関~赤いシャツに緑のリュックサック

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歩く情報機関~赤いシャツに緑のリュックサック



 赤いシャツを年がら年中、身にまとっている情報屋。たった一人で、「情報機関」を名乗っていたとしても、それは言い過ぎではないだろう。
 今回もまた、赤シャツの暗躍はある意味、無駄に群を抜いていた。
 和歌山の立てこももり事件が起きた時には、すでに赤シャツは現地入りしていたという。
 何のために......。それは誰にもわからない。
「ヤツのオヤジが元〇〇会ですわ。間違ったらあきまへんで! ヤツは2人兄弟違いまっせ、3人兄弟でっせ!」
 一瞬、(このボケは、誰に口を聞いているのだ)とカチンときたが、グッとこらえた。赤シャツも興奮しているのだ。場合が場合である。こういう時は仕方あるまい。
 文政であれば、そんな事はまず関係ないのだが、私は彼に比べると良心的なのである。
「あっ、それからでんな。今後の会社の経営には、ヤツの別れた嫁はんが出てきてましてん。これも結構引っ掻きまわしてたみたいでっせ!」
 でっせ、でっせと耳障りではあるが、話の腰を折ってはいけない。「だからどうしてん?」ではなく、「それは知っとる」と返した。その一言に赤シャツはムッときたのであろう。
「ほんなら、これ知ってまっか?」
 そこからの赤シャツの饒舌ぶりは凄まじかった。凄まじかったのだが、赤シャツは拍車がかかり過ぎてしまうと、歯止めを見失い、話を創作してしまう小説家気質のきらいがある。
 私は得るべき情報を赤シャツから引っ張り出すと、一方的に話を打ち切った。
 和歌山県で立てこももり事件があった日、赤シャツの携帯電話は鳴りっぱなしであった。
 主に報道関係者からであったのだが、中には私に赤シャツを紹介して欲しいと言ってきた報道関係者もいたほどだ。
 だが、私は赤シャツを紹介していないし、赤シャツも誰かれ構わず情報を流さない。
 赤シャツの持論に、情報は生物であり、鮮度が大切だというものがある。
 そんな大切な情報を赤シャツは、むやみやたらには提供してくれない。
 赤シャツには、その時その時の優先順位があって、そのトップには常に文政が君臨している。
 そこから、恩を売っておいた方が良いと考えた者にしか、何も話してくれはしない。その情報を上手く回しながら、赤シャツは食べて行く糧を生み出しているのであろう。
 時に知りすぎてしまい、命の瀬戸際にまで立たされながら......。
 和歌山立てこももり事件も落ち着き、一カ月が過ぎていた。
 私はリビングでヒカが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、携帯ゲームに興じていた。
「なぁ! 沖ちゃん、お小遣いあげてえや! あげろ! あげろ! あげろ!」
 ヒカのお小遣いあげて運動も、慣れればパンクロックのようで気にならない。
 ヒカのシャウトの隙間から、テーブルの上に置いていた携帯電話が作動した。
 画面には、赤シャツの文字が踊る。
 今日は、どんな刺激的な情報を届けてくれるのか、わくわくしながら通話ボタンを叩いた。
「はい、もしもしー」

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)