>  >  新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!
兄弟ゲンカ~こうちゃんが迎えた最悪の結末~

新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

〜兄弟ゲンカ~こうちゃんが迎えた最悪の結末~


こうちゃんと私が初めて顔を合わせたのは、15歳の時だった。
 身長はすらっと高く、黒髪のセンター分け。目がひどく悪いらしく度のきついメガネをかけていた。
 学年で言えば、こうちゃんは私の一つ上になった。
 こうちゃんは不良というわけではない。普通に公立の高校に通っていた。だけど、ケンカが滅法強いことと、お父さんが右翼団体に所属していたことで、地元では少し知られた存在だった。


 余談だが、こうちゃんのお父さんが所属した右翼団体こそ、島田紳助のテレビでの発言に腹を立て、抗議の街宣活動を展開させた右翼団体である。


 こうちゃんは暴走族ではなかったけれど、私たちの溜まり場にはよく顔を出していたので、自然と私も話をするようになっていた。だけど、特別親しい間柄というわけでもなく、会えば話をする程度の関係であった。
 そんな関係が二、三年続いたが、その後は顔を合わすことはなかった。そんなこうちゃんと次に再会を果たす事になったのは、地元の拘置所の中であった。お互いハタチを過ぎていた。


「こうちゃんやんっ! どうしたんっ? えらいやつれて、最初分からへんかったでっ」


「うんっ......」


 その頃のこうちゃんは、どっぷりと覚せい剤にハマってしまっていた。
 そして十代の頃、ケンカの強さで名を馳せた男は、「昔はあいつもケンカ強かってんで」という呼ばれ方に変わってしまっていた。


 判決の日。中での規則正しい生活で鋭気を取り戻したこうちゃんは、私にこんなことを言っていた。
「ダブル執行(=執行猶予中の執行猶予判決)取れて、もし今日帰れたら、シャブも辞めて、今の彼女と結婚しようと思ってるねん。実家で兄貴にこれ以上、迷惑かけられへんからさ」


 私は自身の境遇に比べて、少し羨ましく感じながらこう返した。


「そうやで、そうしいや。オレは当分、シャバ帰られへんけど、こうちゃんは頑張らなっ」


 これがこうちゃんと最後の会話になってしまった。


「もしもし、沖ちゃん。ニュース観た?」
 同級生のしんちゃんから電話がかかってくるまで、こうちゃんのことを私はすっかり忘れてしまっていた。


「昨日、実家でお兄ちゃん殺そうとして包丁取り出したらしいねんけど、その包丁を逆にお兄ちゃんに奪われて滅多刺しにされて、こうちゃん死んでもうたわ」


 結局、こうちゃんは覚せい剤という泥沼から抜け出すことができず、その泥沼で溺れ続けた。
 それに疲れ切ってしまった、こうちゃんのお兄ちゃんがこうちゃんの人生に終止符を打ったのだ。
 こうちゃんはあの時、言っていた。


「実家で兄貴にこれ以上、迷惑かけられへんからさ」


 私は携帯電話を耳にあてながら、なんとも言えない虚無感に襲われていた。


 こうちゃんはあの時、結局、ダブル執行をもらえず懲役に行くことになってしまった。もしあの時、シャバに帰れていれば、もしかしたら何かが変わっていたのだろうか。
 虚無感の中で、私はそう思わずにはおれなかった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)