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第3章 邂逅 第23話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第23話

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第3章 邂逅 第23話
(七)


前略
伊丹の兄弟江。
堺は大刑より、一筆認めます。
先の監獄法の改正により、こうして被親族者にも、交友関係の維持を理由にすれば、便りを発することが叶うようになりましたが、兄弟の安否が気にかかっています。
先達ての判決は、俺も紙面を通じて知りました。
兄弟分でありながら、なにも力になれず本当に申し訳ない。
もしも、俺が娑婆にいれば、こんなことになっていなかったのではないかと思うと、悔やんでも悔やみきれません。
どうか、許してください。
ただ今回こうして急ぎペンを走らせているのは、他でもなく、兄弟の姐、ゆまちゃんが大刑まで面会へと来てくれ、兄弟のことを聞いたからです。
兄弟は、一審の判決をそのまま受け入れ、刑を確定させようとしているのでしょうか?
兄弟の性格を考えれば、多分そうするでしょう。
それはそれで、兄弟の決めることでしょうが、ただな兄弟。控訴することと、償うということとは別問題やと俺は思うで。
何も、ゆまちゃんに、兄弟が控訴するように俺から頼んで欲しい、と言われて書くのではありません。
義兄弟の契りを交わした兄弟分として言うのです。
兄弟、ええから控訴してくれ。
それであかなんだら、上告して最高裁まで行ってくれ。
俺ははっきり言って、まだ死刑判決を回避する可能性がゼロではないと思ってる。
兄弟、とにかく黙って控訴して、精神鑑定を受けてくれへんか。
そんなことするのは、兄弟のプライドが許さんのは十分分かってるけれど、何も兄弟の為にそうせえゆうてんのやない。
娑婆で兄弟の帰りを信じて待ってる、ゆまちゃんや、チビの為に控訴して精神鑑定を受けるべきやて言うてるねん。
兄弟、なかなかおらんで。あんだけの事件起こしてんのに何十年も待とうとする子なんて。
ウチのクソ嫁なんて、半年前に一回面会来たきり、手紙も寄こさんがな(苦笑)。
普通やったら兄弟、あんだけのべっぴんさんや、とうの昔にヨソいってもうとるで。
それでも、全部捨ててでも、兄弟信じて待っとんねんから、兄弟も出来ることはしたらなあかんのちゃうか⁈
兄弟が普通やったら、あんなことする人間やないゆうのは、ガキの頃からの兄弟分の俺が一番知っとる。
兄弟は誰が見ても、シャブでおかしなっとってん。
それやったら、精神鑑定受けて、心神耗弱か心神喪失狙ろたらええがな。
それでもあかなんだら、おかしいフリしてでも、アホなフリしてでも、刑の減刑勝ち取らなあかん。
その上で生きて償なったらええねん。
いや、生きて償わなあかんねん。
ちゃうか、兄弟。
兄弟もよう分かってるやろうけど、シャブはどんな強者の人格でも壊してしまう。
いや、強者やから、余計にそうなる。
俺も、そうしてシャブに溺れた一人や。
まかり間違ったら、俺が兄弟と変わってそこに座ってたかもしれん。
兄弟、そうなってたら、俺に何てゆう? やっぱり「控訴せえ」ゆうやろ、「上告せえ」ゆうやろ?
人間、誰もが完璧やない。弱さだってあれば間違いも犯してまう。
俺はそのたびに軌道修正したらええと思うんや。
兄弟いつもゆうてたやんケッ。
自分自身のことは、自分でわかっていれば、人に分かってもらわんでええて。
俺の残刑も二年を切った。
控訴して、精神鑑定で争えば、一年はかかるやろうし、上告までいけば、少なくとも二年はかかる。
俺が帰るまで、死刑を確定させんと待っとってくれ!
どんな力にだってなってみせる。
一蓮托生の絆は、嘘やないぞ!
兄弟、、、もし控訴すらせず、刑を確定させるんやったら、俺は兄弟との盃を水にする。
それくらいの覚悟で頼んでる。
はやまったことだけはするな!
いつでも、控訴取り下げることはできるねんから。
確定してもうたら、もうひっくり返されへんねんで。
頼む。
控訴の手続きを、この手紙読み終えたら、すぐに取ってくれ!
ようゆうやん。生まれた時は、別々でも、死ぬ時は一緒や、て。
それやで兄弟!
兄弟、負けるなよ!
この空の下、兄弟の健勝を太く祈ってる。
呉々も、自愛して下さい。

不一
      龍一より。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)