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第3章 邂逅 第19話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第19話

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第3章 邂逅 第19話

(四)
 優しい日差しの昼下がり。オレは事務所へ「出社」する為に、時折ガードレールを車の鍵でカンカンッと鳴らしながら、歩いていた。


 気が付いたのはオレの方が早かった。
 それが、国道沿いのよく行く喫茶店でバイトしている彼女だとすぐにわかった。
 年の頃は23、4歳といったところだろうか。少し茶髪のショートカットがよく似合う瞳の大きな彼女とは、喫茶店に通ううちに話をするようになっていて、いつの間にかモーニングのサンドウィッチとアイスコーヒーよりも、彼女との会話のほうが楽しみになっていた。ムショボケを抱えているオレにとって異性と気軽に話せる自体、珍しいコトだった。
 オレは、コンビニの前で揉み合うように、格闘している彼女に、のんきな声をかけた。オレの声に、彼女と、彼女の対戦相手。彼女をそのままちびにした男の子が振り返った。彼女はオレを見て、一瞬驚いたような顔を浮かべた後、困った顔で微笑み返してくれた。
「どうしてんっ、ちび?」
 むちゃくちゃ怒られた。頭を撫でようとした右手まで叩かれてしまった。
「ちびとちがうわっ、ゆきちやっ!」
「こらっ! ゆきちっ!」すかさず彼女がちびを叱りつける。
「ごめん、ごめん、ゆきちていうんか。ほんで、ゆきちはなんでママと格闘してんねん?」
彼女がひたすら謝るのを笑い返して、彼女の横でぐずっていたゆきちに喋りかけた。
「ママがわるいねんっ! ママがな、ゆきちと約束したのになっ、ママがなっ、ママがなっ、、、ううううえ~っん!」
キッとしていた吸い込まれそうな瞳が潤んだかと思うと、ゆきちは顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。
 なんでも彼女から事情を聞くところによると、乱闘現場の真ん中にあるコンビニで、以前に予約していたゲームソフトを買いに来たらしいのだが、あまりの人気で予約していても、そのゲームソフトを買えなかったらしい。それが原因で、ゆきちが怒り出し乱闘、、、失礼。ゆきちがママを困らせていた、というのだ。
「やり方もわからへんのに、欲しい欲しいってゆうてきかないんですっ」
 そうオレに言った後、彼女はゆきちに
「もう男の子やのに、いつまでも泣かないのっ」と言って彼をなだめた。
 オレは彼女に、なんという名のゲームソフトか確認してから、ゆきちの目線にしゃがみ込み、指の腹で瞳から溢れ出てくる涙をぬぐってやった。
「ヨッシャゆきち。もう泣いたらいかんっ。おっちゃんがそのゲームソフトどないかしてきたろっ」
「ほっほっほんまにっ!」
ヒックヒックとしゃくり上げながら、ゆきちは無垢な瞳をオレへと向けた。


 オレも昔は、こんな瞳をしていたのであろうか。
 一瞬そう思ったが、ちょうどゆきちと同じ年頃に、母の財布から一万円札をくすねて全裸にされてしまったことを思い出し、そんな瞳などしていなかったことに気がついた。
 思い出すんじゃなかった、、、。

●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)