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第3章 邂逅 第17話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第17話

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第3章 邂逅 第17話

(二)
「控訴してっ。お願いやから控訴してっ」
「でけへんて。もう頼むからゆわんとってくれやっ」
「なんでわかってくれへんのっ! なんで生きようとしてくれへんのっ!」
 ゆまに非難されなくても、そりゃオレだって生きたかった。生きれるものなら、一日でも長く生き延びたかった。でも、どの面下げて控訴できるというのだ。あれだけのコトをさらしておいて、どの面下げて命乞いしろというのだ。
 これ以上、自分の見苦しい悪態をさらしたくなかった。
 オレのやってしまったコトに、人の心なんてどこにもないけれど、それでも残っている良心だけは、最後の最後まで失いたくなかった。オレは控訴せず、一審の死刑判決を受け入れるコトを望んだ。
「そうやって、なんで杏っちゃんは、いつも自分のことしか考えてくれへんのっ。ゆまが、、、ゆまが、どんな想いで証言台に立って、杏っちゃんの情状酌量を求めたと思うっ!そんなん考えてくれたことあんのっ!ゆまやゆきちのコト考えてくれたことあんのっ!」
 もしかしたら、終わろうとしている予感があった。
 終わっていこうとしてるのに、何もできない自分が、どうしようもなく辛かった。
 ゆまは瞳いっぱいにためた涙を零しながら、古びた灰色のドアを開け面会室を後にした。

 通常、判決を言い渡されると、翌日から数えて、14日以内に控訴の手続きをとらなければ、その判決が自然確定するコトになっている。ただ、死刑判決に限っては、自分自身が控訴の手続きを取らなくても、本人の弁護人が控訴しようと思えば、控訴することが出来るという特例があった。
 しかしオレは、死刑判決を下されたすぐ後に拘置所の面会室へとやって来た国選弁護人に対し、控訴しない意思を伝え、国選弁護人もあっけないほど簡単にそれを了承して帰っていった。
 オレの命なんて、そんなもんだろう。
 だが、ゆまは違った。
 死刑判決が下された翌日、果てしなく高い空から舞い降りてきた雪は、街をホワイトクリスマスに染め、娑婆の人の心を沸騰させていた。
 その人々の中を、彼女はどんな想いで面会へとやって来て、また帰っていったのだろうか。
 なぜ、オレは社会生存中、ずっと横にいた彼女の愛が分からなかったのだろう。
 なぜ、オレはいつも幸せになるコトにビクついてしまっていたのだろう。
 今となっては、全てが愚痴だった、、、。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)