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第3章 邂逅 第16話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第16話

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第3章 邂逅 第16話

(一)


 拘置所から裁判所に向かう護送バスの中から見た街の景色は、輝いていた。店頭を飾るイルミネーションだけではなく、行き交う人達の表情までも輝いて映った。もう二度と生きて戻れない窓の向こう側は、イブを演出させていた。


 やはり、検察から出され論告求刑は「死刑」だった。
 愕然とした、というよりも、「死刑」という言葉の響きが重すぎて、どこか現実として実感することができなかった、といったほうが適切かもしれない。
 傍聴席は、オレの起こした事件を風化させていったコトを物語っているかのように、空席が目立った。
 初公判では、36席ある傍聴席が全て埋まり、どの席からも憎しみで染まった鋭い視線がオレに向って放たれていた。足が竦んでしまいそうだった。
 どれだけ、この公判廷に出廷することが毎回苦しかったか。
 被害者の遺族となった人達が遺影を手に傍聴席中央に陣取り、憎しみの込められた目でオレを見ていた。
 その中には、まだ小学生の男の子と女の子まで加わっていて、その小さな瞳の中にも怨念が込められていた。
 下げた視線を上げることはできなかった。
 自分は、なんの為に生まれてきたのだろうか。
 苦しいなんて生易しいものじゃなかった。
 それが、オレの起こした罪の重みだった。
 トチ狂い、なんの落ち度も見当たらない人の生活を、この両手で奪い去った罪の証しだった。
 誰が悪い訳でもない。オノレが悪いのだ。そんなコトは、考えなくてもわかっていた。わかっていたから、そのやり場のなさが辛かった。
 どっかの教祖や児童殺傷事件の犯人のように、根元から歪みきるコトができれば、どれだけ楽か、と考えてしまったコトもあった。
 不謹慎な話だ。不謹慎すぎる。
 それほど、裁きの庭に立たされるということが、辛くて辛くて仕方なかった。
 それだけならまだよい。自分の業なのだから、怨まれるのも、憎まれるのも、呪詛の視線を浴びせられることも仕方ない。
 逆だったら、殺しても殺し足りない体だろう。
 だけどその目がゆまと幼いゆきちに向くのだけは耐えられなかった。心が粉々に砕けそうだった。生き地獄の上の地獄。
「もう、公判には来んでええてっ」
何度も何度もゆまに訴えた。それでも彼女は、
「逃げられへんっ。杏っちゃんが苦しい思いしてんのに逃げられへん。もう、ゆまは逃げたくないっ」
 と、初公判から判決に至るまで、膝の上の手をギュッと握り、傍聴席に座り続けた。
「どんなことがあっても、彼と一緒に償っていきます。あたしに出来るコトなら、なんだってやります。だから、、、だからお願いです!もう一度。もう一度だけ、あたし達にチャンスを下さい。やり直すチャンスを与えてくださいっ!」
 ゆまは、情状証人として証言台に立ち「良心に従って真実を述べ──」と宣言した後、裁判官へ情状酌量を訴えてくれた。
 法廷にいるほぼ全ての者がオレに憎しみの目を放つ針のムシロの空間で、彼女はオレのために、たった一人で戦おうとしていた。
 それがどれだけ被害者の遺族の神経を逆撫でする行為か充分に理解しながらも、毅然とした態度で、オレのために訴え続けていた。
 全ての者を敵に回しても、彼女はオレのために戦い続けてくれていた。
「最後に、裁判所に対して何か言っておきたいコトはありますか?」
 全ての審理が終了した後、三人並ぶ中央の裁判官から尋ねられた。
「ほんま、、、」
至る所から、怨念が向けられている場所で、少しでも怖じけづいてしまえば、声が震え出してしまいそうだった。

「、、、自分のやってしもうたコトは、取り返しのつかんコトやというのは、鈍い私でもわかります。私も男稼業に身を置いたコトのある人間ですから、今更、命乞いは言いません。
 でも、怖いです。
 正直、死刑は怖いです。こわあて、こわあて、仕方ないです。
 それが、その怖さこそが、自分の犯してしまった罪の重さと思うて、今必死にその怖さと向き合いながら、生きています。
 残りの時間は少なくなりましたが、生きている間、自分の犯してしまった罪から目を背けるコトなく償っていきたいと思っています。
 本当に、本当に済みませんでした、、、」
 なんでこんなコトを口にしたのか、というよりも頭の中が真っ白になって、何を言おうとしているのかすら、自分でも分からなかった。
 ただ喋り終えた後も、心臓が破裂しそうなほど高なり、顔面が焼けてるように熱かった。
「ひとつだけあなたに、裁判官から尋ねます」
 尋問口調というよりも、何か聞き忘れたコトを思い出して尋ねる、といった感じのニュアンスで裁判長が口を開いた。
「あなたの犯した罪は、今あなたの話にあった極刑を免れるコトはないかもしれません。その上で尋ねますが、あなたは極刑、つまり、死刑制度についてどう思われますか? 廃止にするべきだと思いますか?」
 いくらなんでも、今のオレにその質問は、酷ってもんだろう、と思いながら、裁判長の意図するところを掴みかねていた。
 考えられるとしたら、ゆまと編集者のさとうさんが、オレの情状酌量を求めて、助命運動をおこない、それが呼び水となり、一部のマスコミに取り上げられたコトに関係あるのかもしれない。
「難しいことはわかりません。
 今の立場で言えば、そりゃ生きたいです。ですから、死刑が廃止されれば、ホッとしてしまうと思います。
 でも、それでもやっぱり死刑は必要だと思います。
 死ななければ、死んで詫びなければならない罪というのは、やはりあるんやないでしょうか。難しいコトは、私にはわかりませんけれど、、、」
 そこまで言うと、オレは下を向いて口を閉ざした。
 判決はクリスマスイヴ、12月24日に決まった。
 そして、その日に裁判長が読み上げた判決文は俗に言う『主文を後回しにする』というやつだった。
予想通りの死刑判決だった。