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第2章 追憶 第14話

新装改訂版 沖田臥竜Presents!小説『死に体』 第14話

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■第2章 追憶 第14話

(九)
 散々迷ったあげく、やっと書き上げた返事だったけれど、出すものか出さぬものか、また迷わずにはおれなかった。
 返事が欲しければ「返事を下さい」と一言書き添えるだけでことは足りる。
 だが、何度読み直しても、みどからの手紙には、そんな言葉はなかった。
 しかし、だ。
 返事が要らなければ、迷惑ならば、みどの性格からして
ー忙しいと思うし、返事は気にしやんといてねー
なんて生易しい物言いではなく、ズバリ
─はっきり言って、返事は迷惑だから止めてよね─
 と、きっぱり書くはずである。
 あれから、みどとはずいぶんと逢っていないが、手紙を読むかぎり、オレに対してのスタンスは当時とあまり変わっていないことがひしひしとうかがえた。
 大人の事情、暗黙の了解事項として、ただ気持ちだけを伝えたい、もしくは、みどからの手紙に書かれてあったように、言わなければ気が済まない、というだけの場合、住所を記さないという技がある。
 だけど、みどの手紙には、しっかりと住所が記されているのだ。
 ならば返事を書いても差し支えなかろう、と判断できるのだが、ここに問題があった。
 記されている住所が、この拘置所の近所の県立病院だったりするのだ。
 みどの住まいが県立病院になったとは考えにくいので、なんらかの病気、もしくは事故で入院してると考えるのが妥当な線のだけれど、もしかすると遠回しに「必要以上に関わるのは勘弁よ」というサインだともとれなくはない。
 誘っていただくことはなかったので終生、合コンなる聖域へ参加することがなかったけれど、聞いたことがある。その場で女子の方から教えてもらった番号に後日かけてみると、実は関西電気保安協会だった、なんてパターンを。
 病院と関電。これは、それに非常に類似したパターンじゃなかろうか。
 そんなことをあれこれ考えているうちに、だんだんと考えることが面倒になってきたオレはその場しのぎの、要するに悪質な合コンパターンなら、出した手紙がそのまま送り返されてくるだろう。それならそれでいいじゃないか、といった気分で手紙を出すことにした。


 結局、宛先人不明で戻ってくることはなかったが、みど本人から返事が届くことも永遠になかった。
(10)
 次第に、みどに手紙を書いた記憶も薄れていったクリスマスイヴの前日。街の賑わいとは裏腹に、オレの一審の判決も明日に迫っていた。
ークリスマスイブに死刑て言われるのもオレの人生にお似合いやなっー
なんてコトをすっかり板についた辛気臭い顔で思っていると、社会からその手紙は届けられた。
 それは、哀しい手紙だった。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)