>  >  > WBC世界バンダム級タイトルマッチ!山中慎介VSルイス・ネリ戦 『勝者なきタイトルマッチ』 文・沖田臥竜
勝者なきタイトルマッチ

WBC世界バンダム級タイトルマッチ!山中慎介VSルイス・ネリ戦 『勝者なきタイトルマッチ』 文・沖田臥竜

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勝者なきタイトルマッチ


確かにネリは強かった。憎たらしいほど強かった。その憎たらしさは試合後にも遺憾無く発揮された。


前回の試合では、山中陣営からの早すぎたタオルの投入。その後のネリのドーピング疑惑と山中には、不運が重なった。再戦が決まり、タイトルマッチまでの7ヶ月。山中はそうした不運を払拭する為に、サンドバッグを何度も何度も打ち込み、ひたすら走り続け、過酷な減量にも耐え抜いて、ただネリだけに照準を合わせていたはずだ。

だが実際、山中の不運はまだ終わってはいなかった。

ネリの計量失敗。

繰り返すが、ネリには前回のタイトルマッチでドーピング疑惑がかけられていた。本来なら事実がどうであれ、ネリにとってその汚名を晴らさなければならなかった場のはずだ。
だがネリは計量を失敗し、ドーピング疑惑といった後味の悪さの中で手にしたベルトを、戦わずして剥奪されてしまったのである。

どのような職業であったとしても賃金が発生する以上、最低限の自覚が必要とされる。それが「プロ」とつけば尚更である。ネリにはプロとしての自覚も、ましてや王者としての誇りも欠落していたのだ。
結果、本人にはWBC(世界ボクシング評議会)から無期限の出場停止処分が下された。本人はそれで良いだろう。だが、山中サイドからすれば、そんなもので奪われた栄光を取り戻すことはもうできない。

計量を失敗した選手がリングに上がる場合、ほとんどのケースが1ラウンドから振り回してくる。それもそのはずである。計量に失敗した時点で、もう失うものがないのだ。あとはやけくそで突進していくしかない。挙句、計量を失敗しているおかげで、本来過酷な減量で奪われるはずの体力までも温存されてしまっていたりする。
対する相手陣営。今回で言うと山中サイドは12ラウンドフルで戦い抜く為の、練習をしてきた訳だ。
そんな、失うものもないやけくそになっているネリと山中がそもそもリングの上で向かい合い、かみ合うと思うか。かみ合うはずがないのだ。

試合後、ネリはまるでタイトルを防衛したかのように、リングの上で喜んで見せていた。その姿はなんだか私には、街中でケンカしてケンカに勝った、ただのチンピラにしか見えなかったのである。
街中でのケンカを、お金を払って観たいと思うボクシングファンがいると思うか。そんな人間いる訳がない。全てのボクシングファンをネリは最後まで侮辱してみせたのだ。陣営もそのことに全く気づかないかのようなはしゃぎぶり。そりゃ、ネリのような街中のチンピラみたいな選手が、育っても仕方ないと思われても、しようがないだろう。

勝者かのように、試合後に笑顔で記念撮影していたネリの顔面を、山中の神の左で泣き顔へと変えて欲しく思ったのは、私だけではあるまい。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)