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九州男くん

新装改訂版『尼崎の一番星たち』絶讃発売中!〜現在、九州男児修行中〜

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九州男くん


 私にはホワイトブッチャーという秘密兵器がいるのだが、九州のブラザー、龍ちゃんにも九州男くんという荒くれが売りの舎弟が存在する。
 九州男くんは強い。百八十を超える身長はみなぎった筋肉で覆われており、素人が束になってかかっていっても、九州男くんをひざまずかすことはできぬであろう。
 それもそのはずである。九州男くんは、彗星の如く明徳義塾に現れ、ウルトラホープと言われた朝青龍を全国大会で倒しているのだ。この黒星で、朝青龍がスター街道を爆進し始めるのは1年遅れたとまで言われている。


 ちなみに、九州男くんの家系は、九州男くんだけでなく、お父さんやお兄さんも力士で、お父さんは幕入りを果たした某大横綱に初めて土をつけた力士として、今も歴史にその名を刻まれている。
 お兄さんもお父さんと同じように幕入りを果たしているのだが、怒りの導火線の短い九州男くんと違い、普段は温厚で気が優しい。
 優しいはずなのだが、これが酒が入ると途端に手をつけられなくなってしまい、凶暴が服を纏っているような九州男くんでも止められなかったりする。
 お兄さんには、博多で起こした有名なエピソードがあった。


 その日、お兄さんはしたたかに酔っていた。酔って屈強な黒人2人組とケンカになってしまった。


「キサン、さっきから何を抜かしとるとね!」


英語でまくし立てていた黒人を軽るく片手で持ち上げ、そのまま自動販売機に叩きつけてしまった。
 それを見ていた別の黒人がすぐに飛びかかったのだが、強烈な突っ張りで顔面を張り倒され、そのままジュースの自動販売機の受け口に無理やりねじ込まれかけている。


「キサンら、こん中に入っとけ!」


 黒人2人組は巨漢である。間違っても、そんな所には入らない。
 繰り返すようだが、普段のお兄さんは温厚で気が優しい。
 土佐犬とピッドブルの闘犬をこよなく愛しており、その関係で芸能界やヤクザ社会に太いパイプを持っていたりする。土佐犬以外にも、お兄さんは闘鶏も同じように愛していた。
 察するに、闘う姿が好きなのであろう。
 そんなお兄さんが愛する鶏をさばいて、こんがり揚げてしまった者がいる。他でもない。九州男くんであった。


 九州男くんも相撲部屋経験者で、ヤクザの部屋住みまで経験しているため、料理の腕がある。
 なんでも簡単に捌けてしまうのだ。それが災いしてしまったのかどうか知らないが、お兄さんの鶏まで捌いてしまったのだった。


 九州男くんの話によれば、その唐揚げをお兄さんは何時になく、「うまか、うまか」と言いながら、口へと運んでいたらしい。
 そして九州男くんに尋ねた。


「九州男、この唐揚げどげんしたと? えらくうまかとね。どこで買うてきたと?」


 まさか食べている唐揚げが、手塩をかけ育てた鶏だとは夢にも思っていない。


「うまかやろが! そりゃそうたい。それ、お前の鳥たい!」


 九州男くんは5メートル吹き飛ばされたらしい。暴れ狂ったお兄さんを誰も止めることはできなかったという。


「殺されるかと思うたばいね」


と、後日になって龍ちゃんに話している九州男くんであるが、反対にしょっちゅう誰かのことを殺しかけていたりする。
 だけど、兄貴分の龍ちゃんの言う事だけは、よく聞くし、反抗をしない。
 龍ちゃんは、「こいつは暴力のみの男やからね」といつも嬉しそうに話している。


 そんな九州男くんの最近の口癖が、「兄貴、文政さんて人は、まだ帰ってこんね?」である。
 彼は、まだ文政に会った事がないのだが、龍ちゃんから文政の話を聞くたびに、その生き様に共感しているらしい。


「お前、先週も同じことゆうとったぞ。もうすぐたい。あと3カ月ちょっとたい。今年の夏に帰ってくるばい」


 時代に流されぬ文政の生き様は、ある意味刹那的かもしれない。刹那な故に、見る者を惹きつけるのだろう。
 今年の夏。裏社会に生きるアウトローたちにとっては東京オリンピックよりも熱い夏がやってくる。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)