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闇弁の末路

新装改訂版『生野が生んだスーパースター文政』発売中!

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ー闇弁の末路ー


 面会から、不機嫌そうに戻ってきた文政は、作業台というよりも、書斎机と化した私の所までやってくると、こうつぶやいた。


「Y弁のアホ死んだらしいど......」
「えっ! 殺されたんか?」
 私はびっくりしながら、文政に尋ねかえした。


 Yと私には、浅からぬ因縁があり、出所したら、私のカマシあげにいくリストの上位にランキングしている人物であった。


「いや、死に方が死に方やっただけに、一時は他殺説も流れたらしいんやが、面会で弘吉がいうには、状況的にも警察の公式発表通り自殺やろうというとったわ」


 自殺......。


 塀の中でも新聞は読む事ができる。
 その紙面を通して、私も文政もYが行方不明になっている事は知っていたが、仮にも弁護士だ。
まさか死体となって発見されようとは、思いもしなかった。


 実際Yの弁護活動はデタラメであった。
 そのデタラメな弁護活動ぶりがYの死にして、他殺説を浮上させたのかもしれない。
 被害者からの依頼を受け、被害者の弁護を選任する事になった場合、加害者の弁護に回る事は禁じられている。逆もしかりである。
 だがYは、それをいくばくの金でやってしまい、切羽が詰まってくると放り出してしまう。
 ボソボソと話すYの喋り口調は、法廷に置いて至極頼りなかったが、金次第で違法の境界線もひょいと超えてくれるので、裏社会の人間に重宝される面もあった。同じくらい怒りも買っていた。


 また、Yには絶えず覚せい剤使用の噂がまことしやかに流れていた。
 そういう渦中に身を置いていたYが「公の犯罪」に手を染めてしまい、捜査の手がYの間近まで迫ってくるとYは忽然と姿を消してしまった。
 この時、押収されるはずの覚醒剤も一緒に姿を消した、と言われている。


 その後、Yが所属していた弁護士協会が報道を通しYの無事を訴えたが、願いは虚しくYは水死体で発見されてしまったというのだ。
 私とYのシコリもこの手のものであった。


 私が今回の事件で逮捕された時も、すぐにYの方から警察署まで面会へとやって来て「何か困ったことはありませんかっ?」と言って来たので、幾つかの頼み事をしていたのだが、その最中にその事件の被害者の弁護を受けてしまい、私が撤回させる一幕があったのだった。
 そのシコリを刑務所の中まで持って来ていた私だったが、Yの死に接しそのシコリは、驚愕と共に過ぎ去り、カマシあげいくリストからも、私の中で外された。


「どうせ、また、のりか、が噛んどんねん。Y弁はのりかにボケてしもうとったからの」


 通称、オカマののりか。
 大阪界隈、特に西成とミナミでは、いつもキナ臭い事件が絡むとこの名が耳をかする。
 Yはこのオカマののりかに、ゾッコンであった事は、文政が言う通り、誰もが知っていた。
 一説には、Yはこののりかから、シャブのレクチャーを受けたと言われている。
 私はのりかと面識がないのだが、文政の話しでは、のりかは摘出手術も済ませ、胸もシリコンで膨らませていたので、女として扱ってもなんの支障もないという。


「あ~あっ〜兄弟がカマシあげて、それで気すんだら、Y弁には文政バッチつけさせたろ思っとったのに計算くるたの~」
 なるほど。それで彼は、ブスっとした表情で面会室から工場へと帰ってきたのだな。


 文政の事だ。「今日からワシの顧問弁護士ならんかいっ!」と、無料でYと顧問契約を結ぶつもりだったのであろう。
 Yはある港で水死体となり、浮かんでいたのだった......。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)